ニッケイ新聞 2008年9月4日付け
政府は法務省管轄下の連邦警察と大統領護衛局配下の国家情報部(Abin)で二分し、違法盗聴が火に油を注いだと三日付けエスタード紙が報じた。政府内に生じた二大勢力の縄張り争いは、国家機密の漏洩に及んだようだ。しかし、世論は殆ど関心を示さず、同機関に改革の要を感じ始めた。
双方の言い分は、水掛け論の域を出ていないといえそうだ。ラセルダAbin前長官の一時離任は、ジョビン国防相がAbinによる盗聴及び逆探知の高性能機器購入を告発したのが決め手となったようだ。
Abinの元締めフェリックス将軍は、国防相の告発が会議出席者を抱き込む詭弁だと激怒、機器の性能について陸軍技術部が検分するよう要求した。これには国防相も腹をたてた。二人の衝突を取り繕うため、大統領がAbin長官の一時離任を選んだようだ。
ブラジルの国家情報活動は一九二七年、大統領の直轄機関として誕生。当初は軍情報部が指揮を採った。一九六四年、軍政によりSNI(国家情報局)として政治警察へ変身。一九九〇年、大統領の戦略機関へ組織変え。それでも旧SNI要員三百人が、現在もAbinで活動している。
ソウザ検事総長は、最高裁の盗聴責任者洗い出しは殆ど不可能だと述べた。しかし、国家の最高機密が週刊誌にすっぱ抜かれたのだ。大統領命令で、連警が事件解明に挑んだ。かつては、連警など足元にも近づけなかった旧SNIが、足跡を残すはずがない。
検事総長の言葉を借りるなら、守秘義務を守る番人が多すぎ、極秘を守りきれないのだ。捜査は徒労だと、検事総長がいう。問題は責任者の解明ではなく、何故、何のため盗聴の必要があったのか。週刊誌に情報漏洩をした意図は何かだ。
他に重大な隠し事があり、盗聴という違法行為は単なるミスらしい。辛らつな見方をするなら、国家の治安を守る二つの機関が、縄張り争いをしたのだ。Abinと連警の関係改善には、膿を取り除くための思い切った手術をする必要がありそうだ。
ラセルダ前長官がAbinへ赴任したのは、一千六百人の大所帯となったAbinの構造改革を行うためであった。Abinには、旧SNIグループが陰の勢力を構成しているからだ。前長官の一時離任とサチアグラハ作戦のケイロス主任捜査官の左遷は、Abinの改革に必要であったらしい。