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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2008年9月11日付け

 時折ブラジルにいることを忘れてしまうサンパウロにいて、バイーアはかねてからの憧れだった。古都サルヴァドール、カンドンブレにカポエイラ。黒人の沸き立つようなパワーを感じさせてくれるのではないか。そんな思いを胸に機上の人となった▼早速取材で訪れたのは日本文化祭り。オロドゥンではなく盆踊りの和太鼓を聞き、アカラジェではなくヤキソバを食べて会場を出たら、通りの名前が「ドリヴァル・カイーミ通り」だった▼先月、九十四歳で亡くなったバイーアの海と自然を歌った国民的歌手の曲を口ずさみつつ、ペロウリーニョ広場がある観光地区へ。高台から見える青い海。通り過ぎる美しいムラータ。歴史を感じさせる教会を見上げていると、子供たちに取り囲まれた。どうやらお隣りのセルジッペ州からの修学旅行生。十人ほどの名前を漢字で書かされた挙句、記念撮影の真中に収まっていた▼後日、同州内陸部最大の都市ジュアゼイロへのバスに乗った。車窓に広がる枯れた大地。これぞブラジルの原風景だろう。バルガス・リョサが書いた「世界終末戦争」の舞台となったカヌードスも近いのではー。途中止まったバス停で「あなた日本人?」と出稼ぎで日本にいたブラジル人に声をかけられた▼そういえばジュアゼイロは、今年生誕五十周年を迎えたボサノヴァの創造主ジョアン・ジルベルト、女性歌手イヴェッチ・サンガロの故郷ではないか。そんなことを取材先の日系家庭でNHKを見ながら思い出していた▼バイーアに日本人が入植して五十五年。今回の訪問で記者のイメージに〃日系〃が加わったのは言うまでもない。 (剛)