ニッケイ新聞 2008年9月16日付け
二○○五年十月、日米社会保障協定が発効した。主旨は、(1)相手国に居住している間、年金・医療保険制度への二重加入を防ぐ、(2)両国での年金加入期間を通算して受給資格を発生させる―というもの。掛け金の払い込みを終わっている高齢の米国在住者にとって、関係が深いのが(2)。実際の運用はどうなっているのだろうか。
協定の主旨
日本の老齢年金の受給資格は「加入期間が二十五年以上」であること。米国の老齢年金である社会保障(ソーシャル・セキュリティー)の受給資格は「同十年以上」だ。
例えば、日本で二十一年働き、米国で四年働いた場合、日米社会保障協定を適用すると通算して「加入二十五年」になるので、日本の条件「二十五年」も米国の条件「十年」も両方満たすという解釈をする。
その結果、日本からは二十一年働いた分に相当する年金を受給し、米国からは四年働いた分に相当する年金を受給できることになる。○五年以前であれば、両国のいずれの受給資格も満たしていないと解釈された。
米国に長期在住している人たちには、若くして日本を離れた人が多い。日本では数年しか働かず、渡米以来の就労が人生の主な年金加入期間だという人たちだ。これまで日本の就労数年分は〃掛け捨て〃状態だったが、米国での就労年数を合算して、日本の年金も請求できるようになったというのが、日米社会保障協定の大きな意義だ。
米国の窓口
日米両国の年金加入期間を通算するに伴い、両国の窓口も連動するようになったというが―。
日本の社会保険庁の説明によると、米国の社会保障事務所の窓口にあるイントラネットで必要な請求用紙をプリントアウトし、書き込んで、添付書類とともに窓口に出せばいいことになっているが―。
同イントラネットの端末を求めて、米社会保障事務所三カ所を訪ね歩いた日本人がいる。その人の話によると、イントラネット端末は存在するが、一般人が触れることのできない「カウンターの向こう側」で、事務所の職員も、その端末について知識がないという。
さらに、米事務所の職員に日本の年金を請求したいと相談したところ、いずれの場所も、「本国に直接掛け合ってくれ」と〃門前払い〃の状態だったという。米国が同様の協定を結ぶ国は現在二十数カ国に達しており、それぞれのルールが微妙に違う。その日本人は、全米の窓口が何カ国もの年金制度に精通するのを期待するのが無理と、同情にも似た理解を示した。
日本の窓口
在住国からの手続きが難しければ、結局、日本の窓口に直接申請することになる。
日本国内の社会保険庁の窓口で「あなたは年金をもらえない」と告げられた場合でも、もらえるようになったという米国在住者がいる。日本国内の窓口は国内手続きに精通しているが、国外の例には慣れておらず、誤って「不可」と判断することがあるらしい。
米国在住者の場合、米歳入庁(IRS)から居住者証明書を取り寄せて日本に申請するが、このような〃珍しい〃手続きに日本国内の職員が慣れていなかったり、英語の書類に弱かったりするのが問題だ。
制度を知らない
サンフランシスコ在住の日本人女性Aさん(76)は、四年前に年金申請の代行業者を利用して、年金を受けるようになった。Aさんの友人には、自分で申請を済ませた人もいる。しかしAさんは、「制度があること自体が知られていない」と言う。
ある申請代行業者は、「制度があることを知っていても、内容をきちんと理解している米国居住者はまだ少ないのではないか。また、受給できる可能性がある場合でも、手続きが煩雑なためにあきらめているケースも多いのではないか」と言う。
制度や手続きの実際については、いろいろな出版物や社会保険庁のウェブサイトで詳しく語られている。せっかくある制度を利用しない手はない。