ニッケイ新聞 2008年10月02日付け
ブラジル日本商工会議所のコンサルタント部会(佐々木光部会長)が主催するセミナー「〇八年選挙と今後のブラジル政局」が九月二十四日に同商議所内で開催され、五日に控えた統一地方選挙と二年後の大統領選挙との関連を含め、興味深い分析が在伯日本大使館、政務班の近藤健書記官によって発表された。好況に沸く現在、国民は基本政策に不満が少ないため、与党に有利な展開になっているという。同書記官は今月、在アンゴラ大使館に転勤する予定。
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「あくまで私の個人的な意見です」と前置きし、近藤書記官は、今回の選挙は二年後に大きな影響力を持つとの意見を明らかにし、次のようなブラジル政界の基本的な構図と特徴を説明した。
連邦議員に市長がぶら下がる形で中央と地方がつながっているという。
各連邦議員には「議員修正予算(emenda parlamentar)」という中央政府から配分される予算枠があり、それを自らの選挙地盤となる地方へのプロジェクトに割り当て、利害の一致する市長はそれを自らの仕事として喧伝できる。
その見返りとして、市長は二年後の統一全国選挙の時に地域内の票の取りまとめを手伝う補完関係を持つ。そのような補完関係にある市長を多くもつ連邦議員ほど、当選しやすくなる。
与党議員の場合、一人当たり毎年平均八万八二二三レアル、野党議員の場合は三万九六一九レアル(〇四~〇六年)が予算枠の中から使えるという。
連邦政府から地方への交付金額も、与野党間で格差が歴然とある。与党市長ほどより多くの交付金を受け、与党有利の構造が作られる。
あるプロジェクトが連邦予算に計上されても、実際に執行(支払い)されるかどうかは、政府の判断にかかっており、与党のプロジェクトの方に優先的に配分される傾向があるという。
「ブラジルでは、経済成長と政権支持率が密接にリンクしている」という興味深い分析をする。石油・鉄鉱石などの資源高、食糧高、岩塩層下油田発見などの追い風も吹いている。
ルーラ大統領への国民の満足度は、ブラジル歴代大統領の中でも最高。九月十二日報道で「最高」「良い」を評価した国民は六四%にも達した。以前は貧困層中心の人気を誇ったが、今回は富裕層、中産階級など全階級、高~低学歴の全層を通して半数以上が評価した。
人気を支えているのは、国民の四人に一人が受け取るボルサ・ファミリア(千百万世帯)だ。〇六年に再選した時に同大統領支持が多数を占めた州と、同ボルサの受給者割合の多い州の分布が似ている、との報道があったことを挙げる。
さらに特徴として連邦に限らず、政府・自治体の広報予算が多いことが、与党優勢を継続させる仕組みとなっている、と分析した。
ルーラは並ぶもののないカリスマと認識されており、度重なるスキャンダルでも唯一無傷。野党政治家までルーラと並んだ写真を撮りたがる状態になっている。
今選挙の意味合いは「現状維持」だという。現状への不満が少なく、基本的な方向性に国民の合意があることを確認する選挙になる。
国民的合意があるのは「緊縮的財政金融政策による経済安定と貧困対策強化による格差削減の両立」という考え方だ。言葉を変えれば「全体の支出を抑えつつ、貧困対策にはばらまく」こと。元々はPSDBの政策で、それを拡大強化したもの。
実はPTとPSDBの経済政策はほぼ同様で、「事実以上、二大政党制を実現している」と見ている。
というのも、両党とも歴史をたどれば、八〇年代にMDBから派生しているからだという。
政界構図として、PTを中心に左派連合にはPCdoB、PSBが常に組し、中道にはPSDBを軸にDEMが組する。この二大政党を軸に、常に与党との連立する傾向のあるPMDB、PTB、PR、PDTなどがとりまく。
主要都市での結果が二年の大統領選挙に多大な影響を与える。PSDBとの二極体制は維持されるか、与党がどれだけ強化されるかなどが、今選挙で問われているようだ。(つづく)
写真=丁寧に説明する近藤書記官