ニッケイ新聞 2008年10月03日付け
調査結果によればサンパウロ市長選挙では、三五%と断然トップの支持率を誇るマルタ候補(PT)に対し、現職カサビ候補(DEM、二五%)がどれだけ迫り、アルキミン候補(PSDM、二〇%)が追い上げるか、の三つ巴になっている。
本来、DEMとPSDBは連邦レベルでは与党連合だが、ブラジルでは地方ごとに独自の動きが起きる特徴(党議拘束なし)がある。
セーラ現サンパウロ州知事(PSDB)にとっては知事選挙に出馬した時の副市長がカサビ候補であり、二年後の大統領選挙を見据えて、サンパウロ州中心の勢力範囲しかないPSDBとしては、伝統があって全伯にネットワークをもつDEMとの提携は必須だと踏んでいる。
二年前の大統領選挙では党内で候補者指名をアルキミン候補と争って、苦い思いをしたセーラ知事としては、今市長選挙ではカサビ候補支持にまわっている。
PSDBとDEMの統一候補を立てられなかった時点で、サンパウロ市長選挙では苦戦を強いられる構図になっていた。このため、二年後に向け、PSDB党内では分裂・関係悪化などが心配されている。
現状では、マルタ候補が過半数をとれずに、決選投票にもつれこむ可能性が高い。その場合、カサビ候補かアルキミン候補が合同すれば勝つ可能性が高いが、高い人気を誇るルーラが徹底的にマルタ応援をすれば与党の強みを発揮する可能性もあるという。
ルーラ大統領にとって、二度目の再選不可という法律を受け入れて後継候補を二年後に擁立するか、逆に再選可にするための法改正をするか、という選択肢がある。近藤書記官は「大統領は政治的な嗅覚に優れた人。これ以上は無理と判断するのでは」と後継候補擁立の可能性が高いとする。
現状ではジウマ・ロウゼフ官房長官が最有力後継者と首都では衆目が一致しているという。同官房長官は「愛想がない」「くそ真面目」との人物評が多いが、「政治家としてはきわめて優秀」と高く評価。ただし、PT主流派でなく、選挙をやったことがない、という弱点も持つ。
ルーラが後継者指名した場合、どれだけ票を与えられるかという点に関し、「州知事、市長選レベルでは当選例は多い。大統領選で例はないが、当選可能とする見方は多い」という。もし一〇年に後継者が当選した場合、一四年選挙ではまだ六十九歳のルーラが再出馬する可能性もある。
PT長期政権になった場合の心配点としては、連邦政府や議会での政治任用数が増えており、今のところGDP比で懸念されるところまで言っていないが、公務員の質などの効率面でいずれ問題にされる可能性があるようだ。
今後の政治動向としては、中期的に安定傾向。ブラジル自体の特性として、BRICsの中でもインドやロシアにあるような隣国紛争、民族、宗教対立がない点が強みとなる。資源、食糧の点でも中国、インドのような弱みがない。国際金融に対する脆弱性も以前より強化されてきている。
このような与党に有利な構図(巨額宣伝費、党籍異動・党議拘束なし、議員修正予算など)により、政権の安定性が守られる傾向がある。さらに、政権が交代したとしても、事実上の二大政党制で、基本的な方向はほぼ同一。PTより左派が政権をとることは難しいようだ。(終わり)