ニッケイ新聞 2008年10月3日付け
県連主催の「ふるさと巡り」に来伯七年目にして初随行。過密なスケジュールと聞いていたこともあり、少々気後れしていたのだが、なかなかどうしてこれが非常に楽しかった▼パウリスタ線はツッパン、バストス、ポンペイア。南麻州のトレス・ラゴアス、カンポ・グランデ、ミランダ(パンタナール)、ノロエステ線のリンス、プロミッソンを四泊七日(車中二泊!)という恐るべき日程なのだが、さすがは開拓と農作業で鍛え抜いた精神力と体力。一人の落伍者もなく、息も絶え絶えの記者を含め、無事リベルダーデに帰り着いた▼日本的な忙しい旅行といえそうだが、移住者ではない参加者の言葉が印象に残った。「不平不満を誰も言わないのに驚く。今の日本人にはない協調性を感じた」。ものごとに動じず、拘泥しない。腰の座りはマットの大木の如しだが、それでいて時間には正確どころか三十分前には準備万端。日伯両方のいい部分が血となり肉となっているのだろう▼パンタナールでワニを見た参加者、「移住地で味噌汁にしてよく食べた」と舌なめずり。バストス史料館に展示されている戦前の写真には本人が写っており、ツッパンでは「十年ほど棉を作っていましたよ」と懐かしげ。友人が中国にツアー旅行で行ったところ、メンバーに元軍人の老人がおり、大陸での体験談を拝聴した話をふと思い出したが、何と贅沢かつ貴重な体験であろうか▼何度も参加している人曰く、趣旨である先没者供養と地元コロニアとの交流が何といっても魅力だという。三十回を迎えたが、単なる観光ツアーにすることなく、地道に続けていって欲しい企画である。 (剛)