日伯経済関係が新しい次元に〃飛翔〃――。ボーイング、エアバス社に続くブラジル航空機メーカーであるエンブラエル社は、日本を代表する航空会社日本航空(JAL)に対し、初号機の引渡しセレモニーを三日午後、サンパウロ州サンジョゼ・ドス・カンポス市にある本社で行った。出席した島内憲駐伯大使は「次の百年を先取りする動き」とあいさつし、新時代の日伯パートナーシップを象徴する出来事だと喜んだ。
最初に挨拶にたったエンブラエル社のフレデリコ・クラド社長は「弊社の発展には日系人の貢献は欠かせないものだった。日本を代表するJALから選んでもらい、百周年に渡せることを感謝したい」と述べた。同社関係者ら百人以上が出席する中、巨大な幕が突如落とされ、完成した機体が姿をあらわした。
日伯就航三十周年を迎えたJALの西松遥社長も「記念すべき年に導入できて大変嬉しい」とし、〇二年から同社の日本販売代理店をする丸紅(本社=東京)の朝田照男社長も「機体ビジネスに関わるのは四十年ぶり、丸紅にとっても新しい歴史を刻む出来事」とのべた。
日航広報によれば、購入したE-JETシリーズ「エンブラエル170」(七十六人乗り)は本年度の二機を手始めに、二〇一〇年末までに十機導入される。機体断面が洋ナシ形の胴体構造をしており、競合他社機に比べ、内部の居住性がよいとされる。カタログ価格は一機三十五億円。
エンブラエル社広報によれば、E-JETシリーズの機体は〇四年から生産をはじめ、すでにエールフランス、蘭KLM、米ノースウエスト、独ルフトハンザなど三十カ国の五十航空会社で採用され四百三十機が就航中だという。
一〇年以降の羽田空港の再拡張により、発着枠が大幅に拡大するビジネスチャンスをとらえ、JALは保有航空機を小さくし、顧客需要にあわせて多頻度に就航させることを目指している。
十一月後半に路線訓練に投入し、来年二月には小牧―福岡、小牧―松山に就航予定。同三月に開港する富士山静岡空港と福岡を結ぶ新規路線にも就航させる予定。
式典後、横田聡エンブラエル副社長(サンタクルス病院の横田パウロ理事長の実弟)は「JALに選ばれて大変幸せ。二世として、このビジネスに関係できて特別な感慨がある」と語った。
世界の空にエンブラエル=エタノール機も開発中
エンブラエル社はJALへの初号機引渡しに当たり、三日にメディア向け工場視察を行った。
沿岸部中心の発展をしてきたブラジルは、内陸に向けて開発を進めるという政府の方針に従い、一九六九年に同社を設立した。従業員は六月時点で二万三千八百五十五人。うち本社に約二万人が勤務する。二十四時間体制でフル生産している。
日系役員によれば「日系従業員は千人程度」という。米国、中国、仏など五カ国に支社がある。
今年六月末時点で八百四十七機、金額に換算すると二百七億ドル分を受注契約済み。エア・カナダは六十機も購入しており、大型機を毎日一回飛ばすより中型機を複数回往復させたほうが、顧客にとっては利便性が高く、燃費や維持費も安上がりだという。
ルイス・セルジオ・チェッシ副社長によれば、「九四年に民営化したが当初は企業精神に乏しかった」と振り返る。「航空機の開発には六年ぐらいかかる。常に十年、十五年後の航空機需要をイメージする長期的な視野が必要」。
国内部品調達率はどの程度かというニッケイ新聞の質問に答え、同副社長は「二〇%程度。ここでは我々の設計思想に基づいた〃インテグラソン(統合)〃をしている」と述べた。日本企業では川崎重工が翼部分の重要部品を提供している。
同社のボツカツ工場では、一〇〇%エタノール燃料で飛ぶ農業用小型機を開発している。
クラド社長は「二年以内には商業機での実験を始めたい。エタノールは石油燃料に比べて発熱量が低く、技術的な問題がまだある。だが、原油価格に左右される現在を思えば、航空産業の将来にとって必要な技術だ」とのべ、長期的な視野にたった取り組みをしていることを強調した。