ニッケイ新聞 2008年10月18日付け
サ紙が「戻りガツオ」の記事を写真入りで報じていた。鰹船から水揚げされるあの腹に輝く大きな銀白色がいい。南洋から黒潮に乗って北上する鰹は北海道沖にまで回遊し豊かなエサを食べる。そして9月中旬になるとまるまると肥り親潮に沿って南下し熱帯の海に戻る。この頭から尾まで脂がいっぱいになったのを「戻りガツオ」と呼ぶ▼背は濃い藍色で腹は縦縞が走り白い。大きいのになると一本が5から6キロになり最高の美味と言っていい。土佐や鹿児島では巻き網で捕るそうだが、三陸沖では一本釣りである。宮城県の気仙沼港は古くから「戻りガツオ」の本場であり、その昔ー鰹船の若い漁師が竹の竿に小さな桶を付け甲板から海に投げ入れて練習するのを見たが、あの腕と腰の力強さは凄いに尽きる▼山口素堂の「目に青葉 山ホトトギス初鰹」ではないが、江戸の人々は、大好きで幕末が迫る文政の頃に中村歌右衛門が1本に3両(現在の約20万円)払ったの記録があり、とても高くて庶民の口には届かなかったらしい。それにー味は好みもあるけれども、遯生にとっての「初鰹」はあまりうまくない。叩きは有名だが、「戻りガツオ」の味を知る向きは刺身の山盛りにかぎるのではないか▼冷や飯に脂たっぷりの鰹の刺身を乗せ熱いお茶を掛けると脳天にまで響く。近頃は「マグロのトロよりおいしい」と絶賛するフアンもいるそうだが、それほどに味蕾を喜ばせ感動させる。そうだー蒸して藁の火で焼いた「生りぶし」があった。これもまたうまいのである。そういえば、サンパウロもすぐに鰹が本番になり楽しみがまた一つ。 (遯)