ニッケイ新聞 2008年10月22日付け
サンパウロ大学(USP)と国際日本文化研究センター共催の、百周年記念国際シンポジウム「日本・ブラジル文化交流―言語・歴史・移民」が十四日から十六日までUSP都市獣医学・畜産学部のアウチーノ・アントゥーネス講堂で行われ、同研究所の教授や学生ら約五十人が参加した。
十四日に行われた開会式には、織田順子USP日文研所長、平野セイジUSP教授、細川周平日文研教授、国際交流基金サンパウロ日本文化センターの西田和正所長らが壇上にあがり開会のあいさつを述べた。
基調講演「日系ブラジル移民の文化史的意義」で細川教授は、日本の移民歴史研究が日本を研究する上で重要とし、ハワイ、北米、南米、中米など世界へ渡った日本人移民の歴史を大まかに話した。
その上でブラジル移民の顕著な「長期間の持続的流入」「高定着率」からくる、現在のブラジル日系社会や文化の特色を分析。一つ目に日本語新聞や同人誌、二つ目に空洞化が進む他国の日本人街と異なるリベルダーデの存在を挙げた。
三つ目に挙げた言語については、例えば北米で英語が必需なのに対し、ブラジル日系社会では日語学習者が減少傾向にあるものの依然として日語が通じるコミュニティーが存在すると話し、経済格差が引き金で日本へのデカセギが出始め、「歴史は繰り返すのか、これから明らかになると思う」とした。
後半では、カラオケや和太鼓、さらにロンドリーナのグループ・サンセイから生まれたマツリダンスなどブラジル化し広がる独自の日本文化に興味を示し、「百年前がきっかけとなり、ここまで日本文化が親しまれている。ブラジルは世界に存在する日本文化の中でも特別な位置にある」とし、最後に、「南米最大の日本文化研究所があるUSPを舞台に、今後ますます盛んに研究されて欲しい」と期待を表した。
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続いて、二宮正人USP教授が「ブラジル人労働者と日伯間の法的協力」について講演した。国際労働法を専門とする二宮教授は、法的問題を挙げて政府間協力の必要性を訴えた。
まず民法上での問題は、単身デカセギ者の蒸発ケース。残された家族の手段として養育費や離婚、子供の認知訴訟を起こすためには、ブラジルの裁判官から訴訟するための裁判嘱託書を日本へ送ることになる。しかし、その八割がうまくいかず、その上短くて一年半ほどかかるという。
ブラジルで欠席裁判を起こすことも別の手段としてある。しかし勝訴しても実際に行方不明の相手に養育費など払ってもらうのは不可能だという。「政府協力があればもっと改善される」と二宮教授は話す。
次に、刑法上の問題は、日本で罪を犯しブラジルへ逃亡したデカセギ者を日本の法律では裁けない実情にあるという。日伯ともに自国民の引渡しを認めていないため、前夜に強盗に入り翌日に飛行機で逃亡するという計画的犯罪もある。現在、九十四人の容疑者がブラジルで何事もなく生活しているという。
ブラジルで裁判を起こすことも可能だが、今までに起訴されたケースはわずかだ。複雑すぎる日本の手続きがネックになっていると二宮教授は話し、書類を減らすことが、問題解決に少しでも繋がるとの考えを示した。
また最後に、日本で起こるデカセギの青少年犯罪に触れ、ブラジルで日系人による犯罪がごく少数であるのと比較し、その原因は何にあるのか会場に問いかけた。そしてますますの日伯民・刑法の協力を訴え、講演を終了した。
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同シンポジウムは、鈴木貞美日文研教授の基調講演、ラウンドテーブル、大学院生報告セッション、最終日には脇坂ジェニ元USP日本文化研究所所長のNARA万葉世界賞受賞記念セッションが行われ、十六日に閉会した。