ニッケイ新聞 2008年10月30日付け
「第三十回念腹忌・第二十回潔子忌追悼全伯俳句大会」(栢野桂山委員長)が、サンパウロ木蔭句会の主催で十九日、ブラジル日系老人クラブ連合会館で行われた。サンパウロ州はもとより南マット・グロッソやパラナなど遠方からも念腹氏の直弟子・孫弟子ら八十八人が集まった。敬慕する佐藤念腹、潔子夫妻の遺影に黙祷を捧げ、句を詠んだ。
祭壇には氏の「大蜘蛛のあらあらしくも圍つくろい」の掛軸が掲げられ、雪の下や月桃、雪柳、黄菊、果物などが供えられて華やかな雰囲気を添えていた。
直弟子の中で最年少という樋口玄海児さん(70)の司会で午前十時に始まり、栢野委員長(90)があいさつ。「ブラジルという膨大な大自然の中より季語季題を確立した偉業は、海外での移民文学史の中で後世に残る」と多くの弟子を代表して師の功績を称えた。
続いて、念腹氏の末弟である佐藤牛童子・朝蔭誌主宰(90)があいさつ。故郷新潟で雑貨商店を営んでいた当時、兄・念腹氏が恩師の高浜虚子に「写生俳句の種を蒔き育てることも亦、男子の仕事として大変意義ある立派な仕事」と、はなむけの言葉と共に贈られた三句を紹介した。
その三句は、
◎東風の船着きしところに国造り
◎鍬取って国常立の尊かな
◎畑打って俳諧国を拓べし
佐藤氏はまた、全世界の日系コロニアで俳句が衰退している現状に触れ、「何とか力を注ぎブラジル独特の俳句を育ててゆきたいものと思います。広い大陸に移民の子孫を繁栄させた、その大陸の大自然を褒め称えたい」と抱負を語った。
席題「念腹忌、潔子忌、春寒、春蚊、春惜しむ、会場嘱目」の互選に移り、結果発表の前に昼食をとり、真面目で厳しくもユーモアあふれていたという念腹氏との思い出話が披露された。
直弟子の新津稚鴎さん(93)や伊津野朝民さん(94)は、一緒に行脚したことを振り返った。西谷南風さん(89)は、ある俳句大会で師を差し置いて一位になり「柳の下に泥鰌(どじょう)も居るもんだ」と言われ嬉しかったが、本当は「居らんのだぞ」と言いたかったのかもと話し、会場は和やかな雰囲気で発表へと移った。
代表者選者の五句選、牛童子席題特選句、念腹忌兼題句牛童子選、同特選十句を発表、賞品が渡された。また席題高点句だった小斎棹子さん、大熊星子さん、栢野委員長(一位から)にトロフィーが授与され、和気藹々とした雰囲気で終了した。なお、菅原岩山さんから「牧守の句集第二」、秋枝つね子さんからおてもとが参加者全員に贈られた。
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【兼題句牛童子選特選十句―草の芽、小鳥の日、ナザレ祭り、アズロン、春菊】
目覚めたる如く草の芽庭石に(山下差智子)
草の芽のしぶとく萌え出し石畳(笹谷蘭峯)
移民拓きし野の草の芽の伸ぶ力(浅海喜世子)
草の芽の合掌ほどきて萌え初めし(谷脇佐容好)
菊菜買ふ耕主名入りの無農薬(小橋矢介夫)
胸張りて唄ふアズロン恋敵(小村広江)
アズロンに目覚めし旅の野のホテル(鈴木文子)
アズロンは米蒔頃を知って居り(小原安雄)
鳴禽の鳴き次ぐ楽園小鳥の日(矢萩秀子)
佳く鳴きし目白を想ふや小鳥の日(前田昌弘)
【牛童子席題特選句】
二千キロ支へられ来し念腹忌(平野住代)
一リットルのピンガかけ雷の句碑洗ふ(三原芥)
ブラジルにホ句ある限り念腹忌(笹谷蘭峯)
師の句碑を火酒で洗ひし念腹忌(大熊星子)
一行の句評の力や念腹忌(小斎棹子)
春惜む我が齢数へ涙して(岡村静子)
帰国の人と別れを惜しみ春惜む(小西成子)
ホ句に生く余生何時まで念腹忌(栢野桂山)