ニッケイ新聞 2008年11月1日付け
田辺聖子さんに文化勲章が決まった。「カモカのおっちゃん」など鋭い人間観察をユーモア豊かに描く文を好むフアンは多い。川柳作家の評伝や伝記も人気だし、古典にも詳しく「私本・源氏物語」は、文化勲章を受章した先輩・円地文子と瀬戸内寂聴の「源氏物語」の現代語訳に通じる。聖子さんが最も関心あるのは紫式部だそうだし、このお二人とは、何か縁があるような気もする▼今年面白いのは、フジヤマ・トビウオとド・キーンさんが選らばれたことである。戦争に敗れ人々が打ちひしがれていたときに「もっと元気を」と勢い付けて呉れたのが、古橋広之進さんである。食べる物がなくさつま芋で腹を膨らせプールが狭しとばかり泳ぐ。アメリカの選手をも寄せ付けない新記録を次々に出したあの素晴らしき泳法は今も語り継がれる▼「明治天皇」の著もある日本文学研究のド・キーンさんの功績はもっと評価されていい。日本の文学や文化をこの人ほどに海外に紹介し普及に努めた学者は少ない。外国人への文化勲章は初めてだそうだが、難しい学問もながらもっと門を広げては如何か。もう一つ。女性の受賞が極めて少ないのもこれからの課題であろう▼それでも、近頃は女優の森光子さんなど少しずつ増えてはいるけれども、どうして彼女が?の批判が起こって話題になった女傑の某さんもいる。ノーベル賞を受けると後追いで文化勲章を贈るのが慣習のようになっているが、大江健三郎さんは「国からの叙勲は嫌」とかで辞退したのにーフランスからの勲章は平身低頭し頂戴したの風評しきりだし、まあ文化勲章の選考は確かに難しい。 (遯)