ニッケイ新聞 2008年11月5日付け
「東京に本社を置く多国籍ブラジル企業」という見出しで、二日付けエスタード紙半頁を割いて写真付きで報じられたのは、日系人が創始したブラステル社だ。副題は「二人のデカセギが一億ドルの電話運営会社を作った」▼共同経営者は日系二世の田辺レナート淳治さんと川合ウィルソン健司さん。共に留学生として訪日して居付いたというから、通常のデカセギとは少々経歴が異なる。九六年創業だから、まだ十二年。それで売上げ一億ドルは少々大げさに見えるが、〇七年八月期で約八十七億三千万円だから現在の円高からすれば近い数字だ▼日本経済新聞の連載「在日ブラジル人光と影」一月十二日付けにも、「『言葉の壁』のため多くは単純労働にしか従事できないが、ブラステルの二人のように起業するケースも増えている」と《光》の部分として紹介された▼エスタード記事中で田辺氏は、「ある会社は五十万ドルを無担保で貸してもいいと言うまでなった。日本では日本人向けにその条件はあっても、外国人にはなかった」と簡単ではなかった道のりの一端をほのめかす▼元々は在日ブラジル人向けの割安国際電話サービスだったが、在日外国人全般に広がり今では二十三カ国語で応対している。東京都内に本社を構え、二百二十人を雇用する。法人向けインターネット電話サービスBASIXもはじめ、ブラジル〃支店〃ではその売り込みに重点を置く▼思えば日本移民がブラジルに開いた会社で、東京支店を作ったところは少ない。まして日本メディアから「多国籍企業」とまで言われる会社は聞かない。これもまた、百年の歴史の貴重な一頁だ。(深)