ニッケイ新聞 2008年11月7日付け
世の中、面白い。金融危機解決が最優先課題だと皆が分かっているのに、メディアは一斉に「初の黒人大統領」だと大騒ぎをする。オバマ氏は人種問題解決のために選ばれた訳ではない。世間では四十七歳の若さが好感を呼んでいるらしい。別の面から見れば、経験が無く、シカゴの下町育ちで金融関係には門外漢であり、最優先課題への対処はまったくこれからだ▼選挙が意味するところは「今の共和党はダメだ」という民意であり、その結果、民主党に票が流れた状態ではないか。民主党スタッフに優秀な金融専門家が多く、有効な対策を打つのではという期待感が膨らんでいるのは分かる。だが、それを個人のカリスマにすり返るメディアの論調に違和感を憶える▼アフリカ系移民の息子が大統領になることは、黒人優位な政策を取ることを意味しない。むしろ、逆の可能性も高い。伝統的な白人以上に白人らしい思考法ができるから、黒人が社会の上位にいくことができた訳だ▼ブラジルの日系人なら、社会的に高いステータスを得た日系人ほど日系社会や日本とは程遠い発想法を身に付ける。並みのブラジル人よりもナショナリストにならないと出世できない▼サルコジ仏大統領も移民の息子だが、移民受け入れ厳格化の最先鋒として有名だ。でなければ、上流社会でのし上がって来られなかったはずだ▼期待が大きいほど失望も深い。白人大統領にはやらせたくない政策を実施させようとする力が働いているのか、とはうがち過ぎか。選挙翌日から株価が続落する勢いのサンパウロ市株式市況を見ていると、「もう、お祭りはお終い」という冷静な声が聞こえてくる。 (深)