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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2008年11月8日付け

 歴史的な事実(真実)の確認は極めて難しい。まったくの捏造や創造であっても、「事実」と「真実」であると信じられることもある。1937年に東京日日新聞(毎日新聞)が報道した「百人斬り競争」は、向井敏明、野田毅両少尉が軍刀で敵兵を次々に斬殺するというものであり、この2人は中国政府により死刑に処せられている。だが、この報道は記者の作り話であり、事実に基づいたものではない▼読者は東京日日を全面的に信じたけれども、2年ほど前に写真を撮影したカメラマンが「記事は捏造」の論文を発表し話題になったが、沖縄県の渡嘉敷、座間味両島の集団自決が軍の命令によるのか否かも、そんな一つである。当時、177人が自決した座間味島にいた梅澤裕・元陸軍少佐は、集団自決するので爆薬や毒薬を呉れと迫った村民らに「住民よ、自決するな」と説き、武器の譲渡を断っている▼ところが、大江健三郎氏が「沖縄ノート」で梅澤元少佐が「集団自決を命じた」と断定的に書いている。これを不満とする梅澤氏は名誉毀損で訴えたのだが、大阪高裁でも大江氏が勝訴している。勿論、この渡嘉敷、座間味の集団自決については、曽根綾子氏のノンフィクション「ある神話の背景」は、大江氏の見解に疑問を呈しているし、隊長命令説を否定する見解も増えている▼先に述べた「百人斬り」も向井、野田両氏の遺族が名誉毀損で毎日と朝日新聞を名誉毀損で訴えたけれども、「あの記事は捏造」と認めはしたものの敗訴している。梅澤氏は現在92歳と高齢ながら高裁判決を不服とし上訴の意向であり、最高裁に期待しているのだがー。(遯)