ニッケイ新聞 2008年11月13日付け
【東京支社長=藤崎康夫】日本の近代経済社会の基礎を築いた渋沢栄一(一八四〇~一九三一)の関連資料などを展示する渋沢史料館(東京都北区)で、企画展「日本人を南米に発展せしむ・日本人のブラジル移住と渋沢栄一」(国際協力機構後援)が十月四日から今月二十四日まで開催されている。
明治初期に大蔵省官僚、その後は実業家として活動し、第一国立銀行や王子製紙、日本郵船、東京証券取引所などの多様な企業の設立・経営に携わり、〃日本資本主義の父〃とも言われる渋沢が、海外移民の送り出しに関わっていたことはあまり知られていない。
今回の展示では、海外雄飛する移民を教育する海外植民学校設立、日本人初の植民地になったイグアッペ植民地を造成した伯剌西爾(ブラジル)拓植株式会社、アマゾンに日本人植民地を作った南米拓植株式会社などとの渋沢の関わりを描くことで、自らの考えを実現するために邁進した人物像を浮き彫りにする。
渋沢栄一宛崎山比佐衛書簡、渋沢栄一宛ブラジル日本移民書簡など貴重な資料の数々が展示されている。これらを通し、当初からブラジルに移り住む意図で海を渡った「植民者」の存在が浮き上がってくる。同館が発行した六十五ページの企画図録も貴重な資料だ。
また、同館では十一月一日、「定住型ブラジル移民と渋沢栄一」をテーマに、鹿児島国際大学経済学部、黒瀬郁二教授による講演会が開かれた。渋沢が深くかかわったブラジル拓殖株式会社と同社が設定したイグアッペ植民地を中心に語られ、参加者らは感心した様子で聞き入っていた。
また、二十三日には立教大学経済学部助教、谷ヶ城秀吉氏による「ブラジル移民事業と南米航路」をテーマに講演も行われる。
百周年を機に、日本におけるブラジル移民の研究に拍車がかかってきているようだ。