ニッケイ新聞 2008年11月19日付け
マット・グロッソ州のブライロ・マジ知事(PR=共和党)は十七日、ブラジル農業は最悪の事態を迎え「農業バブルの崩壊」だと表明したことを十八日付けフォーリャ紙が報じた。物価安定の陰には、農作物の大量生産と安易な貸し付けがあった。農業生産者の七〇%は、農業融資の道が閉ざされたため、農機具融資の分割決済を滞納し、生産者の手足ともいうべき農機具を差し押さえられ始めている。
農機具のローンを組んでいた諸銀行は十日、裁判所を通じてローンの保証物件となっているトラクターや播種機、噴霧機、コンバインなどの農機具差し押さえ請求手続きを始めた。
ロンドノポリスの公証役場だけでも銀行から七十通の法廷外通告書が、差し押さえ許可を得るため裁判所へ提出された。農業生産者はSerasa(債務興信所)から優良債務者として保証されているにも関わらず、取り立ては情け容赦がない。
「現在は播き付け期であり、少し待てば収穫に入る。コモディティの下落と不況の長期化で先行きを見越した銀行は、先手を打ったようだ。これはブラジル農業に不吉な予感を感じさせる」と同知事が嘆いた。
これは、米国のサブプライム「ブラジル版」だと同知事はいう。食料インフレを抑制するため、政府は農業生産者に大量生産を奨励し、支払能力や生産原価、生産者所得などに構わず容易に農業融資を貸し付けた。そこへ金融危機とコモディティの下落、その上にクレジットの枯渇が襲った。
「土地に生きる生産者に、逃げ道はない。全財産を叩いて借金を決済するか、次期収穫に賭けるしかない。しかし、多くの生産者は前者を選んだ。銀行は当然のことを執行したまでだが、農業立国ブラジルはどこへ行く」と同知事はブラジルの将来を案じた。
農機具の差し押さえは生産者の問題ではなく、国家の問題だと同知事は見る。債務不履行は一時的出来事だが、生産者の離農は国力衰退の始まりと考えている。「農業生産者を省みない国家は滅びる」は、歴史の教訓。