ニッケイ新聞 2008年11月20日付け
世界で活躍するバイオリニストの小林武史さん(77)と夫人で助手の明代さん(51)が、百周年を記念して、国際交流基金派遣文化使節として十月十三日に来伯した。夫妻は「音楽を通して世界平和を」との願いを込めて、ベレン、サルバドール、マナウスの地元の音楽学校などで約一カ月間、バイオリンを巡廻指導。十九日にはベレンの芸術祭にも参加し、帰国当日の五日に来社、報告した。
五回目の来伯という小林さんは、今までに中近東やアジア、南米各国の子供たちにバイオリンを指導している。現在、教え子たちが各国で活躍しており、今回招かれたマナウスのマダルベルト・バーレ学校では、七〇年代に指導した教え子との再会を果たした。
ブラジルの子供たちは、他の国の子供に比べ「とても反応が素直。明るくていい」と話す小林さん。サルバドールでは百三十人の子供たちに一日六時間の指導を三日間行い、最終日は両親の前で全員で合奏をした。明代さんによると、「ブラボー」と大喝采だったという。
小林さんは、恩師のバイオリニスト、鈴木鎮一氏によって創始されたスズキ・メソードを用い、すべて日本語で行う。どの国の子供にも必ず日本語で「こんにちは」とあいさつをさせるようにするという。「人間としてコミュニケーションがまず大事。そして上手くできたときは誉める」と指導のコツを紹介。
「子供は未来の宝」と話す小林さん。「世界中の子供が一つに集まって、イデオロギーも全て関係なく、一緒に『きらきら星』を合奏すること。そしたら(平和への)答えが出ます」と夢を語った。
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【小林武史】一九三一年スマトラ生まれ。四一年にスズキ・メソードの創始者、鈴木鎮一氏に師事。五五年、東京交響楽団コンサートマスターとなって以後、チェコスロヴァキア国立ブルノー・フィルハーモニー、オーストリア・リンツ州立ブルックナー交響楽団、読売日本交響楽団のコンサートマスターを歴任。八八年度文化庁芸術祭選奨受賞。九六年度芸術祭大賞受賞。精力的に海外演奏活動を行い、国際交流基金文化使節としても活躍。コレギウム・ムジクル東京主宰。宮城・中新田バッハホール音楽院院長。