ニッケイ新聞 2008年11月26日付け
【神戸新聞】ブラジル・サンパウロ在住の美術コレクターで、日系三世の実業家リカルド赤川さん(59)がこのほど、兵庫県立美術館(神戸市中央区)に、同国の日系画家による絵画五十一点の寄贈を申し入れた。今年は日本からブラジルへの移住が始まって百年。新天地を目指す人々が、神戸港から出港した歴史を踏まえ、「神戸は日系ブラジル人の心のふるさと。日伯の一層の交流促進に役立てば」と寄贈を決めたという。(堀井正純)
同館では今後、委員会で審査の上、作品を受け入れる方針。日系ブラジル人画家の絵画コレクションとしては、国内最大級の規模となる。
赤川さんは、祖父が愛知県出身の移住者。自身は、大手旅行代理店を経営する傍ら、国内外の現代アートを中心に美術品収集を続けてきた。「神戸は祖父母や父が旅立ちの前、夢をふくらませた都市。次男が昨年、神戸市内の高校に留学していたこともあり親近感がある」という。
五十一点は、日系一世から四世までが手掛けたもので、鮮烈な色や形の抽象画や、堅実な写実に基づく風景画、静物画など多彩な内容。
パリ青年ビエンナーレなどの国際展で活躍し、「ブラジルのピカソ」とも呼ばれた故・間部(まべ)マナブさんや、フラビオ・シローさん、九十代の大御所、トミエ・オオタケさんらの作品も含む。
美術品としてだけでなく、歴史的資料としても研究・活用が期待されるが、同館の河崎晃一学芸員は「将来的には『赤川コレクション展』として、日系ブラジル人と縁の深い土地などで国内巡回展も企画したい」と抱負を語る。
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赤川コレクションのうち十一点が、同館で開催中の特別展「ブラジル×日本 旅が結ぶアート」で展示されている。
抽象画に秀作が多く、例えば神戸出身のベテラン、若林和男さんの「無題」は赤茶色と黒の少ない色彩で、複雑な陰影を表現。大胆シンプルな構成の中に東洋的な美意識も感じさせる。
一方、ニューヨーク在住の若手オスカール大岩さんの「WWW.com」は一見すると食肉マーケットの情景を再現した単純な風景画のよう。
だが、ぶらさげられた肉塊は日本や米国、イタリアなどさまざまな国の形をとり、画中のパソコンやタイトルが、ネット社会やグローバリズムを暗示する。無人の風景はどこか虚無的で寂しげでもあり、さまざまな「読み」を誘う。
間部さんら歴史的作家に活躍目覚ましい若手の近作も並び、これまで知る機会が少なかったブラジル美術の豊かさの一端に触れることができる。