ニッケイ新聞 2008年12月6日付け
今年は移民100年ということもあってイベントが賑やかであり、日本の国宝を含む絵画・陶磁器や武具などの展示会や書道展があり、日系人だけではなくブラジルの人たちの目と心を奪ったけれども、先ごろの「声明(しょうみょう)」も、日本仏教の優れた文化と考えたい。文化協会の公演では、PR不足のためか観客が不足の嫌いもあったが、あの荘厳な儀式は素晴らしいに尽きる▼声明は、僧が仏教の経文を歌唱して仏徳をたたえるものでインドから中国を経て奈良時代に伝来したとされる。東大寺の大仏開眼法要(754年)のときに声明を用いたの記録があるから1200年余の歴史を誇る。司会が「世界で一番古いオーケストラ」と説明していたが、神秘的な仏教音楽と言い換えてもいいのではないか▼これの普及には空海と最澄が深く拘わっていたらしい。今回も真言宗と天台宗の僧侶らが見事なばかりの声明声(しょうみょうごえ)を響かせたけれども、この真言・天台声明が日蓮宗や浄土宗、浄土真宗の声明に大きな影響を与えている。それとー、日本の音楽に及ぼした力も見落としてはいけない。「声明声の浄瑠璃もおかしく」とあるように、邦楽の曲は声明から転化したの見方が極めて強い▼美空ひばりなどの演歌も声明の流れのうちとする音楽家もたくさんいる。遯生も30数年か前に「声明と演歌」のテーマで黛敏郎と山本直純らが開いたショーで初めて声明を耳にしながら、演歌とよく似ているなあの印象をもったものである。それにしても、この遠いブラジルの地で真言・天台の声明が聴けるとは、まったくの驚きである。 (遯)