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何かがおかしい陪審裁判=警官による殺害は無罪?=流れが読めない陪審員も

ニッケイ新聞 2008年12月13日付け

 警官に殺された市民は死に損なのか、犯罪者の命は奪ってよいのか、など、疑問続出の陪審裁判結果が、十一、十二日の伯字紙で報じられた。
 問題の裁判は、七月六日にリオ市で起きた、軍警による母子襲撃事件に関するもの。自動車窃盗犯追跡中の警官が、被害者達の車を犯人のものと誤認後、誰何もせず銃撃し、当時三歳のジョアン君が死亡し、母親が負傷。九カ月だった弟も耳に障害が残っている。
 被告の一人に対する陪審裁判では十日、傷害罪は成立するが、殺人罪は不成立との判決。多くの市民に衝撃を与えたこの判決の最大の問題点は、「被告は警官としての職務を遂行しただけ」との理由で殺人罪が成立しなかったことだ。
 ジョアン君の母親が「殺意があった」と言うように、車内の人物を殺すことも辞さなかった軍警が、「子供を殺すつもりはなかった」の一言で、職務を遂行していただけとみなされて無罪となるなら、警官による殺害はすべて無罪となる可能性さえ出て来る。
 また、「あの状況で三歳児殺害が起きるなら、ファベーラでは何をか言わん」と言うように、リオ市の犯罪組織摘発で死者の報道は珍しくない。
 警官による殺害は他州でも増え、サンパウロ州での殺人事件の一二件に一件は軍警によるものと九日付エスタード紙が報じているが、今回の陪審員には、この現状を疑問視する気持ちは薄かったようだ。
 十二日付エスタード紙は陪審員制度見直しの必要も報じたが、陪審員選出には明確な基準も身上調査もなく、今回の陪審員に貧困層の人は皆無。裁判官の質問が理解できない人や過失致死の意味を知らない人もいた。
 リオ州知事も、「納得できない」と言う判決だが、心・体・技の揃った警官養成、陪審員制度見直しなど、幾つもの問題点が浮き彫りにされた陪審裁判の控訴審は年明け後にしか行われない。