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連載〈10・終〉新時代の日伯関係を前に=望まれる司法共助協定

ニッケイ新聞 2008年12月19日付け

 ブラジルから日本に発送する裁判嘱託書の約半数があて先不明として返信されている現状に関して、佐々木リカルド弁護士は、両国が一定の「中央当局」を指定して、嘱託書のやりとりを行うのが現実的な解決策と説明する。いわゆる、司法共助協定の締結だ。
 連載第八回目で紹介したように、裁判嘱託書の発送には、両国の様々な機関の審査を受けるため、手続きの長期化が一つの問題になっている。これを簡略化するために「例えば外務省や大使館を通さず、両国の法務省が直接嘱託書のやり取りをすればいい」という。これにより、一年から一年半ほどかかっている嘱託書のやり取りが三、四カ月ほどまで短縮できる。「現実的にも難しい話ではない」。
 また、ブラジルから裁判嘱託書の半数があて先不明として返信されていることに関連して、「在日大使館や領事館はデカセギの所在地を把握しきれないし、その義務もない。彼らは仕事を求めて各地を転々としており、調べるのも難しい」と語る。
 同弁護士によれば、日本の入国管理局では、デカセギがビザを申請・更新する際には、現住所を提出書類に記載することになっている。ただ、その住所を公的に証明する書類の提出は必要なく、「偽って違う住所を書いても分からない」。また、「そのデカセギが母国から刑事や民事上で訴えられているか」を確認するのも難しいと語る。
 二宮正人弁護士は「日本政府にはもっと柔軟な対応をお願いしたい」と話す。もしも日本側の市町村役場などが、司法共助の形で母国から訴訟を受けたデカセギの居所の情報を提供すれば、嘱託書の未着も減り、留守家族も養育費の支払いが受けられるようになる、と強調する。
 「でも日本側はプライバシーの問題としてデカセギの情報でも公開しない。そもそも日本はブラジルからのそうした要請を履行する義務もなく、市町村でもデカセギの所在地を知らないかもしれない」。
 二宮弁護士や佐々木弁護士は、両国の専門家がより話し合い、この問題における具体的な課題を洗い出し、その上で、両国間が司法共助協定を結ぶことが現実的な解決策になると力を込める。しかし現状では、「そこまで具体的な話し合いは進んでいない」と、二人は表情を曇らせる。
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 昨年五月にエドアルド・マタラッゾ上院議員がまとめた報告書には、司法共助協定に関して、日伯両政府の見解の違いが分析されており、興味深い。
 それによると、「ブラジル政府は〇三年から日本政府に対し、民事、刑事、社会保障問題(年金)を含めた司法協定を結びたいと要請しているが、日本側の反応は良くない」と指摘。そのうえで、「日本政府は裁判嘱託書の発送遅延はブラジル側にあると考えている。そのためブラジル側がその手続きの推進に努力すべきであり、司法共助の協定を締結する結論には至らない」としている。
 とくに〇六年以降、日本側は、代理処罰(国外犯処罰)に関連した刑事問題での司法協定を個別に優先して話し合いを進める方向にあると紹介。加えて、扶養費の支払いに関する司法協定に関しては、四年に一度開催されるヘーグ国際司法会議(国際民事訴訟法などに関する規則の漸進的統一を目的とする政府間国際機関)で扱うべき案件との見解が紹介されている。
 それに対しブラジル側は、この会議の取り決めや国際条約に拠らず、あくまで両国で個別に司法協定を結ぶことが現実な解決策との姿勢にあるとし、両国政府の考えの食い違いが報告されている。
 佐々木弁護士や二宮弁護士によれば、一九四〇年に両国間で司法協定が結ばれているが、これは現状の問題に則しておらず、新たな協定を結ぶのが現実的と語る。
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 一連のブラジル人犯罪者の帰伯逃亡問題や、年金の二重支払い防止などの社会保障問題に関しては、近年、両国の関係者の間で話し合いがもたれている。しかし、今回取材したような民事問題に関しては、日本側にとってはブラジル側の問題として、優先度が低く、留守家族が望むような具体的な要求や協定に関する話し合いは十分に行われていない。
 移民百周年を迎え、日伯両国の友好関係はこれまで以上に大きく発展した。ただ、本格的なデカセギ開始から二十周年を迎えた今年、永住権を取得しながらも、アメリカ発の世界同時不況のあおりを受けて翻弄されるデカセギが顕著になるなど、これまで両国間で見られなかったような複雑な問題が生じている。デカセギ帰伯逃亡問題に限らず、日伯両国には検討・解決すべき課題が横たわっている。(おわり、池田泰久記者)

写真=佐々木弁護士