ニッケイ新聞 2008年12月20日付け
中米五カ国とブラジル内十州から八十人の警察官が参加して行われた、交番システムによる地域警察普及プロジェクトの研修終了式とセミナーが五日午後、サンパウロ市のサンパウロ商業連盟会館で行われ、日本式の交番システムを広げるプロジェクトの第二弾が本格的に動き始めた。主催はサンパウロ州軍警とサンパウロ州保安局で、国際協力機構(JICA)ブラジル事務所が協力。ブラジルのアキレス腱ともいえる治安問題に対し、日本の交番制度が成果を出したことで、今回の拡大版プロジェクトにつながった。
参加者八十人はサンパウロ市内のバーロ・ブランコ軍警士官学校で、二週間で約八十時間受講し、日本の交番システムを学んだ。その修了式が今回で、約三百五十人の関係者が集まる中、一人一人が壇上に上がって修了証書を来賓から手渡された。
ブラジルの交番システムは「地域警察」(ポリシア・コムニターリア)とよばれ、九七年に原型となる組織ができた。〇〇年頃から日本の協力が始まり、三年間ほど訪日研修が行われた。
〇五年から三年間はJICAの仲介により、日本から長期専門家がサンパウロ州軍警に派遣されていた。今回講師となったのは第一弾プロジェクトで三年間にわたり、日本の交番制度を実習してきたサンパウロ州軍警だった。
今回の拡大版は、十一月二十四日から三年間の予定で開始された。今回のパートナーは法務省保安局とサンパウロ州軍警。このような研修会を年四回開催する予定だ。
法務省としては全伯十一都市に交番システムを普及することを目指している。そのためにJICAは三年間に渡り、毎年十二人を研修のために日本に招聘する。旅費はブラジル側負担で、日本滞在費をJICAが支援する。
サンパウロ州軍警では、前回は大サンパウロ市圏が中心だったので、今回は州全域に普及する目標を立てた。JICAとしては三年間、毎年十人ずつ本邦研修として短期研修させるほか、日本から一カ月間の短期専門家を年に二人呼ぶことになっている。
修了証書を受け取ったホンジュラス警察のセーザル・ソモサさんは受講者を代表し、「地域警察の考え方は、各国の実情に合わせた形に適応され、根付くだろう。とても豊かな経験だった」と感謝した。同国に加えてニカラグア、エルサルバドル、グアテマラ、コスタリカの中米五カ国、国内からはリオ、パラー、アクレ、アラゴアスなど十州から参加した。
芳賀克彦JICAブラジル所長は派出所(バーゼ)が増えていることを賞賛し、「治安改善には住民と警察の関係強化が欠かせない」と交番制度の意義を強調した。
ロベルト・アントニオ・ジニスサンパウロ州軍警司令官は「今日はブラジルの警察史に残る日だ。中米五カ国の警察関係強化は歴史的なこと。研修を続け、この道を進もう」と力強く呼びかけた。
ロナウド・マルザゴンサンパウロ州保安局長官も「警察と住民が緊密化することは防犯効果が高いと同時に、市民から尊敬と賞賛を得られることにつながり、警察官のやる気に影響する」と交番制度を高く評価した。
さらに交番の横に地域住民向けのパソコン教室を開講させ、図書館など文化・娯楽施設を作って、地域住民と積極的に交流を増やし、若者に犯罪でなく芸術に触れさせる取り組みを始めたと、新治安方針を紹介した。
地域警察は治安改善の鍵=ブラジル人ジャーナリスト賞賛
修了式に先立って行われた「保安と市民」セミナーでは四人の識者がそれぞれ、治安改善と警察、NGOの役割などを講演した。中でも、現場報道一筋三十年のジャーナリスト、レナート・ロンバルディ氏は「地域警察とメディア」をテーマに、「市民に嫌われすぎた現在の警察が、血の通った交流を取り戻すのが地域警察だ」と力説し、拍手が沸いた。
九一年に訪日視察した経験のある同氏は、「日本の市民は警官を賓客のように迎えるが、ブラジルでは話すらしたがらない」と比較し、「ブラジルのメディア、特にテレビはもっと地域警察に関する報道を積極的に行い、治安改善のための啓蒙活動に協力すべき」との持論を展開した。
「このシステムは現在の警察が抱える多様な問題を解決する鍵といっていい」と賞賛した。