ニッケイ新聞 2008年12月27日付け
【共同】宮内庁は二十五日付で、来年一月十五日に皇居・宮殿で行われる「歌会始の儀」に招かれ、歌が詠み上げられる一般の入選者十人を発表した。 題は「生」。天皇陛下に特別に招かれ歌を披露する召人は民俗学者の谷川健一さん(87)が務める。今回の最年少は福岡県久留米市の中学二年北川光さん(14)。青森県つがる市の農業中村正行さん(80)は二年連続で選ばれた。海外からもブラジル・サンタカタリーナ州ジョインビレ在住の筒井惇さん(73)が入選した。
選考対象の一般応募は二万一千百八十首。このうち海外二十六の国・地域から百八十四首が寄せられ、点字の歌も三十三首あった。
当日は宮殿「松の間」に入選者も招かれ、天皇、皇后両陛下や皇族の歌とともに、伝統的な発声と節回しで歌が詠み上げられる。
その他の入選者は次の通り。(敬称略)
東京都八王子市、無職亀岡純一(79)▽山形県寒河江市、無職木村克子(78)▽栃木県鹿沼市、無職阿久津照子(75)▽神奈川県大和市、介護職員水口伸生(58)▽埼玉県さいたま市、会社員菅野耕平(51)▽千葉市、主婦出口由美(42)▽千葉県市原市、大学二年丸山翔平(19)
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二万以上の応募から選ばれた歌会始の十人の入選者。「生」を題材に、被爆地を訪れた感想や高齢者である自らの境遇など、さまざまな思いを歌に込めた。
最年少、中学二年生の北川さんは今夏、広島市の原爆ドームや広島平和記念資料館を訪れ、展示を見たり、語り部の話を聞いたりして感じたことを歌にした。
昨年に続いての入選となった中村さんは「歌を作るのは生きがい」と話す。昨年は米作りをやめたさみしさを詠んだが、今回の題材は古古米。「倉庫の中に保管されている古古米に哀れみを感じ、高齢者に対する世間の風潮の冷たさと重ね合わせた」と話す。
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共同通信によれば、ブラジルから入選した筒井さんは三重県出身。一九六〇年、二十五歳の時に家族で移住、南マ州にコーヒー農民として入った。現在はジョインビレ在住。
約三十年年前に趣味で俳句をやるようになり、〇五年から短歌を始めた。きっかけは、九〇年代にデカセギで約十年暮らした日本で「故郷を訪れた際、あまりに変わってしまっていて、まるで旅人のような寂しいような気持ちになった」と感じたことだという。
今回応募した歌は、南マット・グロッソ州にある父親の墓参りに行く途中、長距離バスから見た光景を詠んだ。青々とした空の下に、どこまでもずっと広がる広大な畑。その風景にただ心を打たれ、歌にその気持ちを込めたという。
昨年に続いて二度目の応募で、初めての入選。共同リオ支局の取材に対し、筒井さんは「思いも寄らない光栄なこと。ただ嬉しい」と喜びを語った。
ブラジルからは今年の歌会始でも、ニッケイ歌壇選者の渡辺光さんが入選している。