ニッケイ新聞 2008年12月27日付け
【ミランドポリス発=渡邉親枝記者】「クリスマスと移民百周年おめでとう」――コムニダーデ・ユバ(弓場農場、弓場常雄会長)は、クリスマスの二十五日夜、ミランドポリスにある同農場で、恒例の『弓場農場クリスマスの集い』を開催した。サンパウロ市やバストス、ペレイラ・バレット、アリアンサ移住地などから約四百人、またミランドポリス市長夫妻もテアトロ弓場に足を運び、星空のもと幕を開いた。「芸術・宗教・耕すこと」をモットーとして生活する弓場農場の、七十四年続く活動の集大成を舞台で表現した。
雨雲が立ち込めて心配されていた天候も、幕が開ける前に星空へと変わった。弓場常雄会長のあいさつ後に幕が開き、熊本雷太くんの「エリーゼのために」ピアノ独奏で第一部が始まった。
弦楽演奏に続き、弓場勝重さんが「愛の喜び」を独唱。ピアノの音色をバックに力強い歌声が会場に響き渡り、観客をひきつけた。
そして、男女二十人が舞台にあがり、「大地讃頌」「アベ・マリア」「心に主イエスを」「ハレルヤ」を合唱。勢いよく「ハレルヤ ハレルヤ」と弾けるような声が響き渡った。
第二部は、弓場の歴史を振り返るスライドで幕開けした。これは小原綾さんが百周年を記念して初めて企画。プロの演奏家五人による弦楽器の音色がしっとりと響く横で、スクリーンに写真が映し出された。
弓場勇氏を始めとする七人で始まった弓場農場。祈り、ジャングルを切り開いて農地を作り、様々な芸術をたしなみ、独自の生活スタイルを作り上げ守ってきた七十四年間。その歴史にそれぞれが思いを馳せ、涙を流す姿もあった。
今年、日本国外務大臣賞、ブラジル文化功労賞を受け、その活動が日伯両国で評価された弓場。スライドの中で、その活動を支えてきた先没者にオメナージェンを贈り、拍手と歓声で会場が包まれた。
バレエの部に移り、汗がほとばしるような激しく勢いのある「ソーラン節2007」で会場が熱気に包まれると、弓場のバレエ教室に通う五歳からの子供二十人が色違いの水玉模様の浴衣を着て登場。「夕焼け小焼け」「通りゃんせ」など童謡に合わせた踊りで、日本の子供の遊びなどを表現した。
毎年クリスマスに発表する新作の踊りは「タンゴ・エスパニョーラ」。真っ赤な口紅をひいた女性十人が軽快にタンゴのステップを踏み、会場を魅了した。
とりを飾ったのは、百周年を記念して熊本由美子さんが作・演出した「むかし むかし」。「アリアンサ」を創設した長野、鳥取、富山の民話をもとに脚色し、セリフはすべて方言だ。
「やめらっちゃ(やめてくれ)」と叫び山賊から逃げようとする越中富山の薬売り。助けた長野の侍風の芸人は、旅の道中に出会った「おそれよりまする」と上目遣いの女子に騙されて、三人の山姥(やまんば)に食べられそうになってしまう――。
河童や化け狐も登場し、影絵、変装など凝った演出に会場は終始大盛り上がり。方言の面白さ、日本特有の妖怪などに老若男女は興奮している様子だった。フィナーレでは鳴り止まぬほどの拍手が送られて、舞台と客席が一体となって『クリスマスの集い』は閉幕した。
百周年の今年は各地で計二十四回と例年以上のバレエ公演を重ね大忙しだった弓場。「練習する時間が少なかった」というが、弓場会長は、「素晴らしかったね」と充実した表情に笑みを浮かべて感想を述べていた。