ニッケイ新聞 2009年1月14日付け
日本では昨年末から製造業を中心とする派遣社員大量解雇が相次ぎ、派遣型での就労者が多い日系ブラジル人は窮地に立たされている。日本人のブラジル移住百周年を記念して昨年四月に岡山県総社市へ開校した「エスコーラ・モモタロウ・オカヤマ」では、児童減少による経営悪化が深刻だが、地域の支援を受けながら日系ブラジル人支援の核として活動を展開している。
■在校生が6割減
「平日に通う児童がゼロになっても、学校は続けます」。今月十日午後にエスコーラ・モモタロウ・オカヤマで開かれた保護者説明会で、学校運営スタッフはこう切り出した。ほかにも、小学生は三月末まで授業料免除、▽幼児保育は水、土曜を免除▽失業者向け日本語教室の開催―などを伝えた。
同校は昨年半ばには二十四人の園児・児童が在籍していたが、一月十日現在は六割減の十人となった。辞める理由は、保護者の失業、帰国。三人いたブラジル人教員も一人が帰国し、もう一人は長期休職中。代用教員がいないため有志の保護者が先生役を務めている。同校へ給食を配達するブラジル食材店の経営者家族も三月に帰国するという。
■初年度で計画頓挫
同校の一カ月の経費は、給与約三十万円▽教材・事務費約三十万円▽光熱費約十万円で計約七十万円。児童一人三万円、園児三万五千円の学費収入があった時でも、約六十万円にしかならず、赤字状態だった。
開校後一、二年で在校生を四十人まで増やし、経営を安定させる計画だったが、景気悪化という予想外の事態で、計画は初年度で頓挫した格好だ。
初年度は同校に施設を提供している人材派遣会社が光熱費や給与の支払いを肩代わりすることで急場をしのいでいる。次年度からは自力で運営資金をまかなうという約束だが、募金や生徒集めに回る余裕がないため、学費収入以外の財源はほぼゼロ。総社市が十二月補正予算で、年間十万円の補助を決めたが、経営安定にはほど遠い。
同校で日本語を教えているボランティア講師には、一回千円の交通費を支給していた。だが費用が毎月六万円に達するため、一月から打ち切り。奉仕者にも経費負担を強いる形となり、今後の支援者の減少も危ぶまれている。
■善意受け、支援の核に
一方、いわゆる「派遣切り」の報道で同校の窮状が紹介されてから、一般からの支援は急増した。兵庫県在住の個人から二十万円▽総社地区の女性実業家奉仕団体から六万円▽岡山県内の大学教員から五万円▽笠岡市のキリスト教会から二万五千円が寄付されたほか、総社市内外の事業者は文具や菓子の寄付、料理店への招待、無料散髪サービスなどの支援をしている。
こうした善意を受け、同校自体も単なる学校経営にとどまらず、日系ブラジル人支援の核として活動を始めている。
ひとつは昨年後半から始めた大人向け日本語教室。一月二十日からは就業のための日本語教室として計八回開講する。同校には経費負担する余裕がないため、生徒から一回五百円を徴収することにした。
ブラジル人からの相談が相次ぐ総社市役所では、昨年は同校スタッフらがポルトガル語通訳としてボランティアをした。今年は同市役所から週二回の通訳アルバイトの依頼を受けている。
■集住都市以外も目を向けて
総社市のブラジル人人口は昨年十二月二十六日現在で六百十六人。静岡県浜松市などの「集住都市」に比べると規模が小さいだけに、その存在は見逃されがちだ。
同校を運営するNPO法人・ももたろう海外友好協会の枝松孝典理事長は「一月二十四日にイベントで総社市を訪れる国会議員に、ぜひわが校へ視察に来てほしいと要望している。小規模ゆえにより厳しい状況に追い込まれているブラジル人コミュニティーの現状を知ってほしい」と話している。
海外日系人協会(事務局・横浜市)は昨年末から「在日日系人緊急支援募金」運動を立ち上げ、三月末までを第一期として募金を受け付け、日系人を支援するNPO・NGO団体、ブラジル人・ペルー人学校などへ配分する予定だ。
海外日系人協会の募金に関する問い合わせは、同協会(045)211―1780(日本語)、(045)663―3258(ポルトガル語、スペイン語)まで。同協会の住所は〒231―0001 神奈川県横浜市中区新港2―3―1JICA横浜内海外日系人協会在日日系人緊急支援募金係(松田葉子さん通信)