ニッケイ新聞 2009年2月5日付け
戦前、戦後を問わず、開拓の歴史を紐解くと、マラリアに冒される話が出てくる。断続的に起こる高熱に苦しみ、嘔吐を繰り返し、家族がバタバタと倒れていくー。そんな身震いするような光景を擬似体験した、といえば大袈裟だろうか▼KAMBOと呼ばれるアマゾンの一部に生息する蛙(和名=フタイロネコメ蛙、sapo phyllomedusa bicolor)の体液を治療に使うセラピーを体験取材した。木の枝の先端を焼き、男性は上腕、女性は前腕に五つから八つの焼き跡を作り、そこに体液を塗りこんでいく。血管が収縮するのか、皮膚が真っ赤になるほど体温が急激に上がる。猛烈な吐き気に襲われた後、開放感を伴った爽快感に心身が包まれる。しかし、集団でーそれも日系の老人らがー嘔吐する姿はなかなかに壮絶だ▼医学・科学的にいえば、様々な説明がつくのだろう。記者の勝手な解釈では、体に入る毒に抗うことにより、免疫力が高まるのではないか。同行した女性はアトピー性皮膚炎に悩まされていたが、それ以来かゆみが収まった。糖尿病や前立腺肥大には効果てきめんだというが、健康だけが取り得の記者が得たのは、腕の焼印だけ▼ふと、ガマの油を思い出した。香具師の口上で知られる筑波山の四六のガマである。「ガマの四方を鏡で囲み、タラーリ、タラーリと流した油汗を柳の小枝にて三・七の二十一日煮詰めた」ものは、日本古来から伝わり、切り傷に効き、強心作用もあるとか。アマゾンと筑波山が織り成す意識の狭間で、笑顔で会場を後にする〃俄かマラリア患者〃たちを見ながら、不思議な感覚にとらわれていた。 (剛)