ニッケイ新聞 2009年2月12日付け
この不況で在日ブラジル人社会が洩らす不満―果てはデモまでーがニュースで取り上げられている。コロニアからは厳しい意見もあるが、日本人はどう感じているのだろう。その空気や温度は分からないが、新しい日系像が出来ていることは確か▼「ブラジル=危険」というのはステロタイプだが、最近ではアウトローとして生きる日系人も登場してきた。三月に公開される映画「プラスティックシティー」は、サンパウロの闇社会が舞台で主役が演じるのは日系人孤児だ。馳星周の小説「漂流街」では、中国マフィア、警察、ヤクザが入り乱れる世界で日系人の絶望と孤独な戦いを描く▼文芸雑誌『文学界』の新人賞に選ばれた「射手座」は趣が異なる。万引きした日系ブラジル女性を捕まえた警備員の男「加賀」は、その女性が運んできたらしい嬰児の死体を発見し、対応に困る。それを小説の語り手である女性の兄に説明していくーという筋だが、日系人である必然性はあるのかという疑問が読後にまず浮かんだ。「加賀」とポ語動詞の同音異義を終盤の会話に使いたかったからではないだろうが、五人の選考委員でそれを指摘したのは、ただ一人。「日系人=得体が知れない」というイメージは、読者を十分に納得させるのか▼夕刊紙『内外タイムス』(一月二十八日付け)は、一面で「日系ブラジル人マフィア化」と大見出しを立てた。「を懸念する声」と続く文句は売店販売の常套手段で二つ折りにされ、買い手には見えない。デカセギが始まって約二十年。在日ブラジル人のイメージは、どうやら好ましくない方向に定着しつつあると言っていい。 (剛)