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激変するデカセギ事情=大挙帰伯の真相に迫る=連載《3》=大量帰国報道は本当か=片道チケットが五倍に

ニッケイ新聞 2009年2月14日付け

 昨年九月の金融危機による不況で「派遣切り」が始まって以降、日本からのニュースには「ブラジル行き航空券、三月まで帰国するブラジル人でいっぱい」のような報道がちらほらみられたが、それは本当だろうか。
 JAL聖支店営業所の小松繁彦所長は「いろんな所で言われているような、帰国者が殺到して、ブラジル行きの飛行機がパンパンという状況ではない」と断言する。「去年十一月から全体的に増えた。多くのデカセギが帰ってきていることははっきりしている」。
 サンパウロ市内の大手日系旅行社によれば、「JAL以外の飛行機も、そんなにムチャクチャ混んでない」としつつ、金融危機以降の急変事項として、デカセギが使うエコノミーでなく、ビジネスクラスの動向を挙げた。
 「十月まではJALのビジネス七十九席が奪い合いで大変だった。ところが、今はいつでもOK」で、航空会社によっては「ガラガラ」とし、企業関係者の行き来にも大きな変化が現われたとする。「商社なんかでも今はエコノミーを使うようになった」。
 日伯便の年末年始がいっぱいになるのは毎年のこと。では、危機の影響を受け、どの程度異例の増え方をしたのか。
 別の日系旅行社に依頼し、日伯間旅客の動向を調べると、デカセギの帰伯激増を裏付ける数字と、圧倒的に片道チケットで帰ってくるようになった現実が浮かび上がってきた。
 その旅行社が〇八年一月に扱った旅客は七百五十七人中、片道は三百二十五人のみ(42%)だったが、先月は総数で千九百六十八人と約二・六倍に激増し、うち片道は千六百九十五人(86%)を占め、前年比総数でなんと五倍以上になった。もちろん、片道帰国者の大半は解雇されたデカセギだろう。
 年末年始は例年いっぱいになるが、通常なら二~三月は減る。ところが最新の二月の統計を比べると、昨年二月の一カ月間に六百十八人(片道二百三十一人=37%)だったのが、今月最初の一週間だけで四百八十九人(片道四百七人=83%)を記録している。
 駐在員の一時帰国なども多い年末年始と違い、二月はデカセギの密度が高い可能性があり、それが片道チケットの割合増加に現われているようだ。総数自体も一月を上回る異例のペースであり、しばらく増え続けることが予想される。
 しかし、貯金がなく帰るための航空運賃すら払えないデカセギもいる。リベルダーデに支店をかまえる銀行筋から聞いたところでは、「去年まで、学生の子供さんなんかには日本へ送金するケースはありましたが、昨年十二月末あたりからその送金件数が増えました」という。
 帰国するために航空券を買う金すらもなく、家族からの送金で帰伯する人までいるようだ。
 いったい何万人のデカセギが帰伯することになるのかは、今のところ誰にも分からない。(つづく、渡邉親枝記者)