ニッケイ新聞 2009年2月27日付け
世界に類を見ない速度で高齢化が進む日本。二〇〇〇年に介護保険制度を導入したが、数年後にくる超高齢化社会を前に、医療費や福祉の人材不足など、問題は山積みしている。一方、コロニアも高齢化が進み、日系介護施設は常に満員状態。しかし、ブラジルの介護制度の整備は十分と言えないのが実情だ。サンパウロ日伯援護協会広報渉外室長の川守田一省さんは、昨年十一月から一カ月間、JICAの介護サービス研修プログラムを利用して、日本の介護現場を視察した。同研修での視察報告を交え、コロニアの高齢者福祉への提言を含めた展望をする川守田さんの投稿を、七回にわたって紹介する。(編集部)
団塊の世代と言われる一九四〇年代後半から五〇年代前半生まれの中高年層。いわゆる戦後すぐに生まれたベビーブームの世代が定年退職するのが今からです。過去に例のないほど多くの高齢者が、それもかなりの確率で誰かのお世話にならなければなりません。
まずは家族ですが、いろいろな事情で高齢者の介護ができないかもしれません。もしかしたら一人で住んでいるかもしれません。
そこで、要介護認定を受け、介護度在宅サービスを受けている家族が、お母さんを特別養護老人ホーム(以下特養ホーム)に入れたいと思って、地元にある地域包括支援センター(あるいは市、区役所や在宅支援事業所)に相談に行ったとします。担当のケアマネージャー(介護支援専門員)さんが応対してくれました。
「そうですね、希望されているところは従来型の特養ホームで、四人部屋ですね。お宅の場合、月六万円くらいかかります。今入居待ちの方が六百名ほどおられますから、すぐは無理ですね」(注、金額は収入と要介護度によります)。
「えー、そんなに待っているんですか」
「これでも少ない方ですよ。とりあえず、空き待ちの少ないホームがいくつかありますから、そちらにも申込みしておきましょう」
「なんとかお願いします」
「緊急度の高い人が優先されるのですが、それでも待っているのが現状ですから。新型特養ホームでしたら半年くらいで入れるかもしれませんよ。ただし全部個室ですので居住費が高くなります。月々十五万円くらいかかると思います」
「はあ」
「有料老人ホームでしたら入居一時金が五十万円から何千万円までいろいろあります。安いところで月額十七万円から、高いところで四十万円かかります。高いホームでも三ヵ月くらい入居待ちでしょうかね」
「そんな、夢のような話はとてもとても」
「とりあえず現状では、在宅支援サービスを続けておいたらどうでしょう」
「でも、どのくらい待てばいいんですか」
「さー、何とも言えませんね。三年以上かかるかもしれませんし、今入居されてる方が出られるまでですから・・・」
これは架空とはいえ、現実を元にした話です。今、日本では特養ホームをいくら建てても足りません。しかし、圧倒的に希望が多いのは、介護保険導入以前の基準で建設された四人部屋のある従来型特養ホームです。この場合入居費が安いので、利用者や家族の負担が少なくて済みます。
ブラジルの高齢者施設では、定員一杯の施設もあれば、空きのある施設もありますが、さすがに日本ほどの入居待ちはありません。一人部屋もあれば大部屋まで、はては健康な人から要介護の人まで一緒に入居しているところもあります。
しかし、中程度以上のホームでは、介護保険のような制度がないので家族の負担は少なくないのが現状です。すぐ入居できるかどうかは、当然空きがあるかどうかによります。現在、日系の特養ホームは満床状態が続いています。
日本のある市では、特養ホームの向かい側、すぐ目の前に別のホームを建てている現場も見られました。
「本当は、私どものこんなに近くに別のホームを認可するものじゃないんですが、あと十年後にはホーム不足が深刻になるようです。仕方ないですね」(つづく、川守田一省=サンパウロ日伯援護協会、広報渉外室長・社会福祉士)
写真=社会福祉法人至誠学舎立川(東京都立川市)の経営するケアハウス(介護利用型軽費老人ホーム)至誠ホーム・スオミ。今までの施設の概念とは違い、高齢者向けマンションといった雰囲気