ニッケイ新聞 2009年3月17日付け
国際協力機構(JICA)サンパウロ支所主催、ブラジル農業拓殖協同組合中央会の共催で実施された『第九回日系農協活性化セミナー』で、セミナー最終日の一月三十日、カンピーナスの東山農場やジュンジアイで農業視察が行われ、南米四カ国の農協代表者ら三十人が参加した。
午前七時にサンパウロ市を出発した一行が最初に向かったのは、NHKドラマ「ハルとナツ」のロケ地にもなった東山農場。観光農業としての成功事例の一つで、昨年は一万人もの見学訪問があったという。
グァタパラ農業協同組合の林良雄総務理事の引率で同農場に到着。岩崎透代表取締役社長自らが、農場の案内をした。
参加者の目を引いたのは、カピバラやワニ、ピラニアが住んでいるという溜池などの自然や十万本のコーヒーの木もさることながら、「ハルとナツ」で二人が移住後すぐに住んだ家や、その井戸、風呂など。岩崎さんによれば、井戸は撮影のために二倍の大きさに作り直したそうだ。
薄い黄色に塗られた移民小屋の中で、念入りに時代考証がされたという食器類などを見て、「こんな立派なもの使って無かったけど、ただ割れないものだった」などと、参加者は懐かしそうだ。
同農場には現在二百人余りが生活しており、そのうち約五十人が働いている。コミュニティー内には教会、学校もあるという。
続いて一行は、同農場がTrebesche社、SAKATA社と共同栽培をするミニトマトのハウスを見学。水耕栽培で一つの木から十五キロ前後も収穫ができるといい、上から下までたわわに成っている。その酸味が少なく甘い「スイートハート」の試食に、何度も手が伸びていた。開発に二年ほどかけ、今月から商品化されスーパーで販売されるという。
昼食後、向かったのはカンピーナスのペドラ・ブランカ地区の荻原農場。同地の日本人会長を二十一年も務め、笠戸丸表彰を受賞している荻原孝之さん、悦子さん夫妻や、地元日系農家が一行を迎え入れた。
同地で二十六年間、紅白のゴヤバ栽培をしている荻原農場は、二十年ほど前から約千百本のゴヤバの木から収穫するうちの二〇%を欧州へ輸出。一つずつ丁寧にビニールで密閉して出荷されている。ここで栽培している熊谷種は、美味なうえ長持ちするために輸出向きなのだという。
荻原家手製のゴヤバジュースなどでもてなされた一行は、歓迎をしてくれた地元の人たちに別れを告げて最終目的地のジュンジアイに向かった。
イタリア系移民が多く住むジュンジアイでは、今セミナーで講演を行ったイタリア系三世のオルランド・ステッキさんの柿農場を訪ねた。
親戚六家族、約二十二人が一緒に住み、一つの企業として農場運営しているという。八アルケールの土地で、八〇年代からぶどうを生産していたが、現在は柿を三種類植えサンパウロ市に出荷。
オルランドさんは、「ここで働くのは強制でない」と説明していたが、同農場で働いているのは親戚のみ。イタリア系移民には、家を継ぐという考え方は浸透している様だ。ちなみに女性が繁忙期に手伝う場合は、時給制なのだという。
様々な形で農業に携わり活躍する人たちの現場を視察して、充実した一日を過ごした一行は、午後六時過ぎにリベルダーデへ到着、解散となった。