ニッケイ新聞 2009年3月25日付け
「日本で最初の喫茶店『ブラジル移民の父』が始めた カフェーパウリスタ物語」(長谷川泰三著、文園社)が昨年十一月に発行された。
「カフェーパウリスタ」は、サンパウロ州政府からコーヒー豆の無償提供を受け、移民の父と呼ばれる水野龍が開業した日本最初の喫茶店。現在も銀座で営業する同店の歴史を紐解き、日本の珈琲文化と移民との繋がりを探る好著だ。
著者の長谷川氏は日東珈琲株式会社の元取締役社長。同社の前身である「カフェーパウリスタ」の歴史に関心を持ち、同書を執筆した。
移民開始後の一九一〇年に創立された同社が全国に支店を広げ、文化の発信基地になる過程を描く「カフェー繁盛記」(第三章)。
大正ロマンの到来と当時の文化人たちに歓迎された同店に、娘の森茉莉の作品から森鴎外が通っていたことや、中山介山が「大菩薩峠」の出版記念会を開いたなどのエピソードが第四章で紹介される。
著者は、「新しい時代への渇望には、やはり西洋の飲み物が欠かせなかったということか。珈琲が大正から昭和にかけての文化発展の象徴といっても過言ではない」とまとめる。
「銀座でぶらぶら散歩すること」が現在では「銀ブラ」の語源と言われているが、本来は「銀座のカフェーパウリスタで珈琲を飲む」ことなど、驚きの事実が明らかになる一項も。
笠戸丸移民をきっかけに始まったコーヒー豆の無償提供などの経緯にも触れており、日本とブラジルの交流の一端を知る最適の一冊となっている。税別千七百円。