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三枝たか子さん=自閉症教育の成果語る=2年間の報告を講演会で=「家庭のしつけが重要」=生徒の成長ぶりに驚嘆

ニッケイ新聞 2009年3月25日付け

 サンパウロ自閉症療育学級の青空学級(PIPA=菊地義治代表)は二十一日午前九時から、三枝たか子JICAシニアボランティアの「生活療法によるブラジル自閉症教育」講演会を、リベルダーデのブラジル宮城県人会館で開催し、百人弱が足を運び、熱心に聞き入った。薬療法には頼らない生活療法による自閉症児教育を、日本だけでなく北米、ウルグアイなどで行い成果を上げてきた三枝さん。七月の帰国を前に、一年九カ月の成果を報告した。

 最初にPIPA生徒三人が二年間の成果を発表した。自転車にまたがって登場した三人は、そのまま会場を二周。三人で手を繋いで大縄を二十回飛んだり、名前を呼ばれると「SIM」と返事をして立ち上がり一人縄跳びをしてみせた。
 その間、会場からは驚きの声や拍手が絶えなかった。
 「奇声を発する、攻撃的、忍耐の欠如、視線を合わせない、社会性に欠ける、極度の偏食」など多くの問題行動があるとされる自閉症者が、二年弱でこれほど成長した裏には、どのような指導があったのか。講演に観客は真剣に耳を傾けた。
 六百人に一人の割合で自閉症者が生まれており、「原因は究明されていないが、教育者の使命としてほっとくことはできない」と三枝さん。
 親亡き後に自給自足で集団生活ができるように生涯教育を追求するPIPAの特徴は、年齢・能力・体力に合わせた「体力作り・心作り・知的開発」を二十四時間教育、集団環境で行うことだ。
 繰り返しを要するこの教育は、保護者が一緒に取り組むことが不可欠。例えば、極度の偏食を持つのは「家庭でのしつけの問題」と言い切る。
 先月入校した九歳の男児は、一人でフォークを持って食べられなかったが、一カ月で配膳室から自分の食事を運べるほどに。肉とフライドポテトしか食べず、野菜やパン、果物を出すとパニック状態に陥っていた子も、今では家族で外食できるほどだという。
 また、集団環境を作ることで周囲との調和を考えたり、仲間意識が高まったり、問題行動克服に繋がるという。家でパンを食べない子も、PIPAでは「みんなが食べているから」と進んでお代りする。算数などの授業で、仲間が悩んでいたら教える場面もある。
 できることが増えてゆき、体を動かすことで良いホルモンが分泌され、行動抑制ができる。「なぜ薬を服用させなくてはいけないのか」と、主流である自閉症者の療法に疑問を投げかけた。
 生活療法は未だ広く知られておらず、三枝さんは「自閉症教育の教科書は無いに等しいけど、一人ひとりが教科書」と話し、「PIPAの子に多くのことを教えてもらった」と締めくくった。
 講演後、生徒からプレゼントが贈られた。三枝さんは、任期満了後も「第二教員みたいな形でPIPAと繋がりを持ちたい」と話していた。