ニッケイ新聞 2009年4月10日付け
帰国制限に反対する代表的意見として、ロンドリーナ在住の読者S・SさんはFAX三枚に意見を書いて送ってきた。
「支援を受けて帰った人は、日本に再入国できないと、あたかも犯罪者のような条件がついていることに疑問を抱いていることでしょう」との感想をしたためた。
この二十年間、日本の景気を下支えしてきた日系人は、いまや中国や東南アジアから研修生という名のより安い労働力に置き換えられようとしている情勢を振り返り、「もうブラジル日系人がいなくても間に合うから、ということでしょうか」と疑問を呈する。
二宮正人USP法学部教授は「個人的な意見」としながらも、「帰伯者支援に貴重な予算から何億円も使ってもらうのはありがたいが、条件をつけるのはいかがなものか。むしろ、その分、日本に残れるように職業訓練に使ってもらった方が有意義ではないか」との考えをもっている。
一九六〇年代に労働力不足から大量のトルコ人を受け入れたドイツは、十年後に切符代と慰労金を渡して帰ってもらおうとしたが、結局は大半が居ついたという歴史を振り返り、「世の中そういうものです」と移住労働者には定住傾向が強いことを強調する。「いまは不況だが、中長期的に見れば、日本が人手不足になるのは火を見るより明らか」とのべた。
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今回、日本政府が日系人支援策で再就職支援や雇用維持に留まらず、帰国支援にまで踏み込んだのはなぜか。そこには不況で自然に帰伯する以上に〃弾み〃をつけたいという本音が伺える。
あくまで推論だが、失業した在日外国人が「生活保護」申請に走ることで、一世帯あたり毎月十数万円もの自治体負担につながることを恐れているのではないか。
フリー百科事典『ウィキペディア』には、「生活保護にかかる費用は平成十九年度(〇七年)において約二兆七千億円となっており増加中である。高齢者の生活保護受給世帯が増加傾向であり、今後、団塊世代の生活保護受給世帯の増加に伴い、倍増していくことが確実である」とある。
日本の国家予算、一般会計約八十兆円のうち、すでに三%が生活保護に使われており、将来「倍増が確実」だという。
それに加え、今回の世界的不況だ。
〇三年の被保護世帯数は総数約九十四万世帯中、外国籍が約三十一万世帯と三割以上を占め、多くは在日韓国・朝鮮人だという。
永住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、定住者などの日本国への定着性が認められる外国人には、生活保護は支給されるので、日系人もこれにあたる。
四月四日付け毎日新聞によれば、「二月の(岐阜)県内の生活保護申請件数が前年同月の三倍近くに上ったことが県のまとめで分かった」。なかでも「外国人からの相談件数も急増」という。その直後の三月に岐阜県が在日ブラジル人向けの帰国費用支援を打ち出したのは、偶然ではあるまい。
長きに渡って発生するかもしれないこの負担増を考えれば、帰国費用支援として三十万円で済むなら、かなり安く上がる計算だ。実は、しっかり金勘定で判断していることも十分にありえる。
そこからの発想なら、なにも「日系人向けの特別な支援」と温情ぶるのは筋違いだし、日系人側が有難がる必要もない。
日系人のことを親身に考えての支援であれば、再就職支援、雇用維持、子弟教育などの対策だけで十分に高く評価される施策だった。デカセギに対する不信感があったとしても、あえて帰国制限として明文化する必要まであったのか。
「中南米日系人の存在は日本にとっての〃善意の含み資産〃」との来伯した麻生太郎外務大臣(現首相)のコメントもあったが、今回は帰国支援にまで踏み込んで、期限を明示しない「帰国制限」という条件までつけたことで、ポロッと本音が漏れてしまったのかもしれない。(終わり、深沢正雪記者)