ニッケイ新聞 2009年4月25日付け
近頃の日本は女性の社会進出がかなり盛んで政界でも閣僚の小渕優子さんが赤ちゃんを産み話題になったし、文学賞の閨秀も数え切れない。この中からどれくらいの寂聴や田辺聖子、永井路子が生まれるかはわからないが、保守派論客として鳴らした上坂冬子さんが、癌に倒れ去る14日に亡くなられたのは真に惜しい▼「慶州ナザレ園」や「硫黄島いまだ玉砕せず」などの作品で知られ、評論家としての辛口の論評にはフアンが多い。戦中から戦後の混乱の頃に焦点を合わせ、世の安っぽい動きに警鐘を鳴らし、従軍慰安婦の動きには猛烈な批判を浴びせ、左系マスコミの記事にも厳しい。北方領土返還にも熱心であり、本籍を歯舞諸島に移すなど「北方領土上陸」を発表し喝采を浴び、菊池寛賞と正論大賞を受けてもいる▼オピニオン誌「正論」に5年近くも続けてきた「今月の自問自答」を執筆し先の2月号にも麻生太郎首相を応援?する小論文を寄稿しているが、3月号にはない。恐らくー入院し治療中なので体調を崩されたのに相違ないが、あのまさしく毒舌に近い酷評が消えるのは本当に寂しい▼保守派の曽野綾子さんと仲が良かったらしいけれども、保守、革新というよりも、事の本質を堂々と述べる作家や批評家が希少価値になった現在、上坂冬子さんの存在は大きい。このブラジルにも2回来ている。県連の30周年(1996年)には網野弥太郎会長の招きに応じてサンパウロを訪れ講演会を開き大拍手だったけれども、これは「創立30周年記念誌」に掲載されているので是非一読を。上坂冬子さんの享年は78。 (遯)