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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2009年5月6日付け

 移民五十周年を記念して取り組まれたブラジル日系人実態調査(鈴木悌一委員長)の報告書を見て驚いた。頁を繰りながら「必要な情報は半世紀前からすでにあった」という想いに浸った。この内容が学術界に留まらず、もっと日系社会の振興に活かされていたら、どうなっていただろう▼のべ六千人を超える調査員が手弁当で、全伯すべての日系世帯を面接調査してまわったというのは、すごいのひと言だ。五十一年前のコロニアの底力と、意欲の強さをまざまざと感じる。日系人口四十三万百三十五人という数字をはじき出したのみならず、当時の生活や文化の有様を深くえぐる調査だ▼例えば、家長が子供に話しかける言葉が日本語の家庭が、農村部では六〇%も保たれていたが、市街地では四五%になっており、都市の方が雑婚率も高い。半世紀前の時点で、すでに都市生活者ほど同化傾向が高いことを如実に示している。この数字を見て、やはり日本文化の継承は、地方が率先しなければという思いを強くした▼邦字紙読者が全体の三二%もおり、中でも一世に限れば六〇%になったという数字も驚異だが、ブラジル生まれの世代でも四六%が読んでいたというのは、すごい時代だった▼それにしても残念なのは、今回の百周年で実態調査が行われなかったことだ。おそらく最後の機会だった。百周年協会の中に吉岡黎明氏がトップになって委員会までつくられたが、今年になって断念されたと公表されている。その日だけの祭典に数百万レアルをつぎ込む金はあっても、実態調査をできる範囲で実行するという堅実さにかけた点が、返す返す悔やまれる。(深)