ニッケイ新聞 2009年5月19日付け
「両国間にこれほどの親和性と可能性を持った相互関係のある国は他にない。日伯関係には輝かしい将来があると確信する」。島内憲駐伯日本国全権大使が十三日、サンパウロ州工業連盟(FIESP)の講堂で「世界経済・金融危機と日伯関係について」という講演会を行って、そのように語り、約百人が熱心に聞き入った。文協、県連、レアル銀行並びにブラジル日本商工会議所の共催で行われた。
サンパウロ州工業連盟の国際関係・貿易部のトマス・ザノット代表補佐は挨拶の中で、パウロ・スカッフィ同連盟会長が団長となって昨年、最大規模の経済使節団が訪日したことに触れ、「日本移民が持ち込んだ文化は、経済だけでなくあらゆる面に影響を与えている」と大使を歓迎した。
島内大使はまず「昨年は、日本からの対伯投資が前年比八倍以上の四十一億ドルになり、ブラジルへの全外国投資の一割に達した。ブラジルの失われた十年間(八〇年代)、日本のバブル崩壊(九〇年代)の苦い時代を払拭する勢いになっている」と再活性化の途上にあることを強調した。
将来展望に関しても、「日本の対伯投資は、米国を抜いて六位に上昇した。長期的な視点からすれば、長いこと日本からの中心的な投資先であった東南アジアや米国の前に立ち、中国、インド、ロシアに続く四位になると見られている」と両国関係は大きな転換期にあることを示唆した。
「今回の危機により日本は学んだ。専門家が指摘するように、欧米、東南アジアに依存する体質を反省し、大きな可能性を秘めた新興国にも選択肢を広げる必要がある」と語り、ブラジルは南米諸国へはもちろん、欧米への戦略的拠点として地理的な優位性が高いことを賞賛した。
さらに、日本が誇るソフトパワーの一端である漫画やアニメに関して、ブラジルの若者は大変理解が深く、「日本国外におけるポップカルチャーの普及拠点だ」と位置付けた。
昨年の日本移民百周年は、二国関係を強める雰囲気作りのための、最高の盛り上げる機会となったとし、「若者が日系社会を動かして、両国の人的な架け橋に」との期待をのべた。
在日ブラジル人に関しても、「両国の文化や社会を深く理解しており、日伯交流の主役の一人」との認識を示し、二国間関係において重要な役割を果たしているとした。
最後に、「一緒に危機に直面し、〃チャンス〃として活用して両国経済の補完関係の絆を深め、共により力強くなって乗り切ろう」と呼びかけ、サンパウロ市―リオ間の高速鉄道構想への新幹線方式導入など、日本政府はブラジルの巨大プロジェクトへ積極的に関わっていくことを明言した。
一時間の講演のあと質疑応答になり、大使は、ザノット代表補佐からの問いに答える形で、「世界でブラジルほど農業の潜在的能力をもっている国はない。中国、インドなどの新興国も、ブラジルからの供給なくして発展がありえないという意味で、ブラジルの重要性はグローバルな文脈の中でさらに高まっている」と締め括った。