ニッケイ新聞 2009年5月21日付け
瀬戸内海に面した町で生まれ育ち、魚食いを自任している記者。このたびアマゾンに行き、魚のウロコならぬ、目のウロコが落ちた。タンバキー、ツクナレ、ピラニアなどが美味であることは承知していたが、その魚―アカリーは、その名の通り、舌の上で燦然と輝いた▼またの名をボドーともいい、サンパウロではカスクードの名前で知られる。ヨロイナマズという日本名の如く、太古の雰囲気を漂わせる濃い灰色の硬い鎧に身を包んでいる。オコゼやアンコウなど見た目がグロテスクな魚は美味だが、これはその代表格▼まず刺身である。見た目は桃色で鯵に似ており、歯ごたえは新鮮なイカのようにモッチリかつコリコリ感が楽しめる。あっさりとした白身の味に赤身の濃厚さも含み、かすかに香る泥臭さに野趣がある。アマゾンの香草であるシコーニャというコエントロに似たものや、アウファバッカがいいツマだ▼生きたままを炭火に乗せる残酷焼きで食べる内臓は、鮎もしくは、サザエの肝を上品にした風味があり、ヴィナグレッチとの相性は抜群。驚くべきことにカニミソに似た脳ミソが殻の内部にたっぷりと付いており、食卓は無言になる。味噌汁のダシにも絶品で、干した身をほぐした「ピラクイ」は乾物屋に並ぶ。しかし、身一つにこれほどまでの美味、妙味を封じ込めた魚がほかにあろうか。アマゾンは偉大である▼この魚はサンタレンのものが有名だが、対岸のモンテ・アレグレの方が上との評判で、同地日系人の「ふるさとの味」だとか。一番美味いのは乾季の八、九月だという。今度はあのミソに注ぐ日本酒持参での再訪を狙っている。 (剛)