ニッケイ新聞 2009年6月2日付け
【ベレン発=深沢正雪記者】北伯パラー州ベレン市在住の日系二世、町田リョート選手(31、リング名=Lyoto Machida)が米国の総合格闘技大会で世界王者になって五月二十九日に凱旋、翌日の地元紙がみな一面トップに写真を掲載するなど、一般市民から英雄扱いの大歓迎を受けた。ベレン国際空港で約五百人から出迎えを受けたリョート選手は「絶対に勝ってやると信じていた」と記者団に語った。その後ろにいた、父・嘉三さん(63、茨城県出身)はニッケイ新聞の取材に対し、満面に笑みを浮かべて「夢を捨てずに努力すればいつか叶うことを、日系社会のみなさんにも伝えたい」と誇らしげにのべ、街中を凱旋パレードするために、息子と共に消防車の上に乗り込んだ。
「マチダ! マチダ!」。ベレン国際空港には約五百人の観衆が、米国から凱旋する英雄に対し、声を合わせて大声援を送った。マスコミ関係者も約三十人集まり、空港二階通路からも鈴なりの市民が歓迎した。
町田道場からは子供ら約三十人がきて花道を作り、チャンピオン・ベルトを持って出てきたリョート選手を「オス!」と出迎え、続いて正拳突きを披露した。
同選手は五月二十三日、米ラスベガスで開催された総合格闘技イベント「UFC98」のライトヘビー級のタイトルマッチで、ラシャド・エヴァンス選手をKOで下し、プロ公式戦無敗記録を十五に伸ばし、王者の座を奪った。
UFCに行く以前、元ブラジル移民のアントニオ猪木にスカウトされ、新日本プロレスの総合格闘技大会でもデビューして連戦連勝。昨年UFCデビューし、並みいる強豪相手に連勝を飾った上での快挙だった。
同道場で、リョート選手と子供の頃から一緒に練習を重ねてきたマルコ・モラエスさん(37)は、「今回の勝利は当然のこと。まったく驚きはない。我々の空手のレベルが世界最高水準であることを証明してくれて嬉しい」と喜んだ。
出迎えにきたファンのフェリッペ・クルスさん(17)は「誰も町田を破ることは出来ない。パラーの誇りだ」と興奮気味に語った。
嘉三さんは一九六八年、日大農業土木科卒業後に「あるぜんちな丸」で渡伯。最初はパラー州の第二トメ・アスー移住地の測量技師として働いた。その時に一緒に働いたブラジル東京農大会副会長の山中正二さん(71、岩手県出身)=ベレン在住=は「彼は空手で身を立てようとして最初は貧乏しながら苦労した。よくぞ息子をここまでに育てた」と自分のことのように喜んだ。
同地の造園業関連の先駆けとして昨年は山本喜誉司賞も受賞した山中さんは、特大の花束二つをもって空港に駆けつけ、リョート選手と町田さんに渡した。山中さんは「リョートは日系人の誇りだよ」と満足そうな表情を浮かべた。
町田さんはニッケイ新聞の取材に対し、「(息子は)目標を達成した。これから防衛するのが大変。もっと一生懸命練習して、何年か保つようにしたいと思っている」との心中を吐露した。