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次の百年戦略のために=~日系社会とは何か~=第1部《世界史の視点から》(9)=団結せよ、サンパウロ州日系団体=サンパウロ市は日系文化発信拠点

ニッケイ新聞 2009年6月9日付け

 五百万人の外国人移民が入ったブラジルの中でも、サンパウロ州はその半分が入った最大の移民州だ。
 サンパウロ州立移民記念館の資料によれば、サンパウロ州に入った外国人移民のうち最多はイタリア移民で九五万人、全体の約三八%を占める。日本移民は二五万人の七割だから一七万五〇〇〇人が州内に定着した。全伯にすればわずか〇・七%しか占めない日系人口だが、サンパウロ州への移民比率でいえば実は七%を占め、決して小さな数字ではなくなる。
 日本移民は自ら選んでサンパウロ州に入ったと言うより、歴史的にコーヒー耕地のコロノとして導入されたが、結果的にここが〃ブラジルの機関車〃と呼ばれる南米で最も発展した都市となり、そこに日本移民とその子孫が集中している強力な日系社会が根付いていることで、日本文化発信の世界的な拠点が生まれた。
 サンパウロ市に日系集団地があるために、インテリ層は常に日本文化を意識する環境ができあがった。元々そう目論んだわけではないが、少ない人的資源をサンパウロ州に集中的に投下した効果をもたらした。
 ブラジルの国内総生産の三分の一を握るサンパウロ州の存在感は要だ。中でもサンパウロ市には主要な全伯的メディアが集中し、そこで働く日系人も相当数いる。
 百周年でメディアを先導したのはエスタード紙だった。他の民族系コミュニティの移民特集などはほとんどないにも関わらず、数年前から日本移民特集別冊を毎年発刊して百周年の存在を意識付け、フォーリャ紙やベージャ誌などの特集号がそれに続いた。
 最大の影響力を発揮したのは文句なしにグローボ局だろう。四月からサンパウロ州版のニュースで、五月からは全伯版で日系社会のニュースを毎日流した。新聞、雑誌はインテリ階層しか読まないが、テレビは全階層が見るという意味で、絶大な威力、宣伝効果を発揮したといっていい。
 どのメディアも取材対象の大半はサンパウロ市のリベルダーデや近郊の日系集団地だったという意味で、サンパウロ州が日系拠点であった立地の利点が存分に発揮された。
 東洋市、花祭り、七夕祭り、東洋祭り、大晦日の餅つきなどのリベルダーデの日系イベントは「サンパウロ市の風物詩」としてメディアに認識されて、大鳥居とセットで広く報道されることで実態以上の存在感を生んできた。
 仏連、リベルダーデ文化福祉協会(ACAL)、ラジオ体操、宮城県人会、文協などが東洋街で今まで何十年とこつこつとやってきた行事の数々は、このような意味で非常に重要だった。
 主要メディアが集中しているため、サンパウロ市で存在感を示していれば、その影響力を全伯に誇示することができる構造がある。グローボ局やクルトゥーラ局以外は地方ニュースがなく、全伯どこでもサンパウロ市の内容がそのまま放送されるからだ。
 その作用は絶大だ。例えばアマゾナス州都マナウスから南に三〇〇キロも下ったアマゾンど真ん中、日系人がほとんどいないマニコレ市でも百周年を祝うパレードが行われたのは、テレビの影響以外に考えられない。
 身近に日本文化を感じてきたサンパウロ市のブラジル人記者たちの感覚レベルが、全伯報道に反映されたのが昨年の百周年だった。それらが積み重なった結果、日系社会の予想を超えて全伯的に大きく祝われたのではないか。
 逆に言えば、今後は日系人の七割が集中しているサンパウロ州の日系団体がもっと団結し、さらに存在感を強めていけば全伯日系人にとっても大きな底上げとなる。
 その方向性をはっきり意識して、今後の活動を戦略的に組み立てる必要がある。大サンパウロ市圏が団結し、サンパウロ州内での連合会同志の共同イベントなどを増やしていくべきだ。
 昨年の百周年は、ブラジルメディアをとおして世界に発信された。つまり、リベルダーデを中心とした日系文化圏をしっかりと連帯させることで、ブラジル発で世界に向けた発信拠点としても機能していく。これはブラジルの存在感が増すほど発信力は強化されるために、広い視野から考えても世界的な重要拠点だ。
 日本政府もその重要性をしっかりと理解し、コロニアに対する日本文化継承の支援、日本語教育の拡充に十分な予算をつけ、共に手を組んで世界的な存在感を増していくことが肝要ではないか。(つづく、深沢正雪記者)