ニッケイ新聞 2009年7月2日付け
作家檀一雄は、長い冬を越えた雪解けの野原に萌え出す山菜に敏感なのは、韓国女性であるー断じている。万葉集の巻頭を飾る「籠よ み籠持ち ふくしもよ みぶくし持ち この丘に菜摘ます児」は、チマチョゴリを翻し、山菜を摘む韓国少女らの情景に残ると思いたい、とも書く▼韓国に詳しい友人によれば、「確かに山菜好きだが、麺類や田舎料理で一般的な日本ほどではない」とか。地方、時代性もあるから一概にはいえないが、韓国女性との交流も披露する〃火宅の人〃らしい身の入れ方ではある。軍配の行方はさておき、山菜同様、キノコもまた日本人の郷愁を呼ぶ代表的食材▼一九八八年に移住、椎茸の普及に尽力したアルジャー在住の舘澤功之さんによれば、「栽培の講習会を開けば、数百人が訪れた」。生椎茸を食べた老移民が館沢さんの手を握り締め、嗚咽を漏らしたことも。国土の七割が山間地帯である日本。キノコへの思いはことのほか強い▼レストランを経営するイタリア人がモジの日系椎茸農家を訪れるツアーを実施した。食への意識を高める「スローフード」運動の一環。メモを取るほど熱心な参加者らは、「自宅で試したい」と買い込んだ。高級食材だけに購買層は限られるだろうが、健康食材でもあり、和食の枠を越えた普及も大いに有り得る▼リベルダーデで見かけるのは、椎茸、しめじ、エリンギあたり。小欄のつぶやきを漏らせば、ベーコン巻、バター炒めにエノキ茸がいい。この寒い季節、鍋にも堪らない。聞けば、モジに一軒だけ栽培している日系農家があるとか。日系の裾野の広さを感じつつ、モジ再訪を狙っている。(剛)