ニッケイ新聞 2009年7月16日付け
「金融危機で帰ってきた元デカセギ路上生活者がいる」―――。グルーポ・ニッケイでボランティア活動をする鈴木契子リジアさんからニッケイ新聞編集部に衝撃的な情報が寄せられた。その真相はどうなのか。金融危機の影響でデカセギが大挙して帰伯する中、鈴木さんは、「路頭に迷う日系人が増えるのでは」と危機感を示している。
鈴木さんがサンパウロ市リベルダーデ区の路上で日系人の路上生活者に会ったのは六月末。イシカワ・カズヨシ・ジャイメと名乗る四十歳弱ほどのその男は、ラルゴ・ダ・ポルボラの道に座り、モエーダを数えていたという。
「今まで日系人のメンジーゴ(乞食)を見たことがなかったから、びっくりして」。鈴木さんはその時受けた衝撃を、目を見開いて証言する。
体つきはがっちりしていて、伸びっぱなしのぼさぼさの髪の毛に黒い髭の下に、親しみのある笑顔を浮かべた。近寄ると異臭が鼻をついたが、日系人だと確信したという。少し言葉を交わしたが、精神障害を患っているように感じた。
話す言葉はちぐはぐで会話が成立しなかったが、鈴木さんは「経済危機後、誰かに飛行機のチケットを買ってもらって帰ってきたみたい」と話す。家族の話も聞いたが、どこに住んでいるのか、何をしていて連絡を取れる状態なのか分からない。
グルーポ・ニッケイ(島袋レダ代表)は、元デカセギを対象とした「ただいまプロジェクト」で、自己啓発、職相談・案内を行う、数少ない日系人支援団体だ。
鈴木さんは、「今までは日系人のメンジーゴは少なく、日系社会は考える必要がなかった。これからは、危機後に帰国してブラジル社会に馴染めず、かといって日本にも戻れずに路頭に迷う日系人が増えるのでは」と強い危機感を示した。
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鈴木さんは、島袋代表と一緒にイシカワさんを援協福祉部に連れて行き相談した。援協側は、「日系人だけを特別扱いすることはできない」という前提で、公設収容所を紹介するに留まったという。
福祉部の八巻和枝部長は、その時のことをこう思い出す。「あの様子だと最近日本から帰ってきたわけじゃないでしょう。精神障害を患っていて話の時系列がばらばら。リベルダーデには最近移ってきたのかもしれないけど」
加えて、「日系人の路上生活者は最近の話ではなく結構います。子連れもいる。だけど援協は公益団体として日系人だけを支援するわけにはいかないし、今まで周囲の人に相談されて援協の施設に入れたこともある。ですが周囲にとって問題でも、本人にとってそうじゃないこともある。結局その人は自分の意志で施設を出ました」と、一筋縄では解決できないことを訴える。
八巻部長が心がけているのは、「自分の感覚で相手のことを判断しない」こと。「福祉は、『可哀想だから何かしてあげる』のではなく、社会で自立するための選択肢を出来る限り見つけてあげること」と話す。
「NGOなどがやっている無料の職業訓練もあるから、本当はその人のやる気次第なんです」
一方で、十年間、同グループ代表を務める島袋さんは、「日系人の路上生活者が増えるのであれば、それは日系社会全体のイメージと関係するもの。もちろん政府の取り組むべき問題だが、実際頼りにするのは難しい。ジャイミは私たちと同じ日本人の子孫。何らかの支援策を考える必要が出てきたのではないか」と話している。