2009年8月1日付け
サンパウロ州教育局(SEESP)のプロジェクト「デカセギ子弟のサンパウロ州の公立校への復帰」が六月に一年を迎えた。これは、移民百周年記念事業として始めた二つのうちの一つだ(もう一つはVIVA JAPAO)。
州立校に通う生徒を対象にしたプロジェクトの目的は、日本から来る、または戻ってくるデカセギ子弟や両親が日本で働いている子弟を、心理面や教育面から支援しようというものである。
始めるにあたりSEESPは日伯両側において広い活動経験を持つ文化教育連帯学会(ISEC)と二年のパートナーシップを提携。「かえるプロジェクト」としてブラジル三井物産のスポンサーを受けるに至った。
日本の学校に通う在日ブラジル人子弟が、ブラジルに戻り学校に入る時―またその反対の状況で直面する教育問題は、基本的に二つに要約される。コミュニケーションと文化への(再)適合の困難である。
この二つは特に日本人教育者にとって大きな課題であり続けている。この面に関しては多民族・多文化国家のブラジルは優位だろう。
世界経済のグローバリゼーションによって、今世紀の移民現象は世界各国で激しくなる一方だ。SEESPは、かえるプロジェクトが将来的に他の国の外国籍の生徒にも応用できる一つのモデルになると考えている。
二〇〇八年八月SEESPとISECは、手始めに州立校に通うこのような状況にある子供達の把握調査を実施。昨年十月までに回収した七百八十のアンケートによって、全州に九十一あるうち七十四の教育委員会に付属する二百七十校で、六百五十人の対象となる生徒を確認した。
日系人の多いいくつかの地域からアンケート協力が得られなかったため、実際には州立校だけでも一千人近い数にのぼると推定される。これは、あくまで市立校や私立校を除いた数だ。
統計図を見ると、集中しているのはサンパウロ市、聖東・西・南地区、グランデ・サンパウロではモジ・ダス・クルーゼス中心部、サントアンドレー、スザノ、地方ではバウルーやアンドラジーナ、ペレイラ・バレット、ツッパン、マリリア、ソロカバ、ジャレスが挙げられる。
アンケート結果を分析すると、これらの生徒の大半は学校にも慣れ、当初直面する適応の困難―特にポルトガル語、仲間や教師との関係作りにおいて―も乗り越えている。
しかしもう一方で、日本で父親、母親、または両方が働いている間親戚に預けられた子供たちの憂えるべき面が明らかにされた。
このグループは非行に走ったり、不就学、授業に関心がないなどの問題を持つ。生活の中に親の存在が無いことが最も指摘されるが、家族の離散や不和も決定的な原因だった。
これらアンケートの情報を実際に確かめるために、ISECの心理学チームは〇八年十月から市内三十校を訪問。生徒や教師、保護者ら約二百人を直接インタビューした。今年も引き続き、SEESPのメンバーも随行してバウルー、マリリア、アンドラジーナの学校を訪ねている。
これらの訪問で集まった情報は現在分析の段階で、整理してから公表される予定だ。
経済危機の影響を受け、昨年末から六月までに、対象となる生徒百三十一人が新しく州立校に登録された。これは以前の調査結果の約二〇%増になる。年始にはすでに我われのもとに、日本から、また最近戻ってきたデカセギ家族から様々な相談―子供がブラジルで学ぶ際に直面すると考えられる問題(言語や文化など)に関する―が届き、指導にあたっている。
しかし、そのアドバイスによってどうなったか結果が報告されないため、我われが相談に対して指導を行っても、それが正しかったのか判断するのが難しい。
深い考察と研究を進め、模索しながら進行中のこのプロジェクトに示唆を与えるものとして、結果を反映することはとても重要になってくる。よってSEESPは相談受付センターを設置し、内容によってSEESPとISECが分担して取り組む体制を作った。SEESPの時間の中で電話、メールで相談を受け付けている。
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【SEESP】メール=infoeducacao@educacao.sp.gov.br。電話=11・3237・2115、内線213(日野寛幸、または佐野シルビオ)。【ISEC】メール=projetokaeru@isec.org.br。電話=11・3203・1916(中川郷子)。
日野寛幸(ひの・ひろゆき)
福岡県出身。10歳で移住。USPを卒業後、公立校で化学を教え、教育局に約30年勤務。サンパウロ州教育局日本文化教育プログラム「VIVA JAPAO」の発案者でコーディネイターを務める。「かえるプロジェクト」コーディネーター。62歳。