ニッケイ新聞 2009年8月6日付け
【愛知県知立市発=秋山郁美通信員】知立(ちりゅう)市は、愛知県西三河地方に位置し、豊田、安城、刈谷の三市に囲まれた比較的小さな市だが、人口密度は高く、特に外国人は人口の六・五%と豊田市の三・九%を大きく上回る。市内の外国人の大半がブラジル人で、その半数二千人強が知立団地に住んでいる。昨年からの不況で市内に多くあった派遣会社の多くがつぶれ、仕事があるほうが少ないのではないかというほど失職が当たり前の状況になった。昨年末にピークを迎えた解雇や契約解除から半年が経ち、雇用保険も切れてきた今夏、今までぼんやりとしていた危機感が、ようやくはっきりとその形を浮き彫りにしてきたようだ。
市役所へ行くと、どこもかしこもブラジル人でいっぱい。以前は一つしかなかった外国人相談窓口も増え、バイリンガルの職員も目立つようになった。
同市では知立団地で四月に初めて行われた派遣村以後相談が急増し、二カ月で約二百人が生活保護の申請をした。
ブラジル人集住地といえば一般に、静岡県浜松市や群馬県大泉町、愛知県豊田市の保見団地などの知名度が高いが、じつはここ知立市も多い。
同県多文化共生推進室調べによれば、〇八年十二月末現在で、市総人口の六万八千七百三十九人中、外国人は四千四百九十一人で六・五三%を占める。もちろん大半はブラジル人だ。
ちなみに日本で一番外国人比率が高いのは群馬県大泉町で、総人口四万二千百十三人中、外国人は六千八百七十八人にもなり、比率では一六・三%にもなる。
生活保護受給者数が名古屋市の十二パーミル(千人に十二人の割合)に比較すると、知立市の三パーミルから五パーミルへの上昇はさほど多くは感じられない。だが、人口七万人に満たない市の小さな福祉課の窓口に、短期間にこの人数が殺到するのは大変なことだ。
取材に訪れた日、知立派遣村実行委員会の高須優子代表とともに、受付開始時刻早々から福祉課の窓口に生活保護申請に来たのは、日系ブラジルの四人家族だった。
二十代の両親と三歳、一歳の娘。父親は半年ほど仕事がなく、支援金を利用して帰国の予定があるが、それまでの生活ができないため前回の派遣村で相談をしていた。
「書類を出して早ければ十五分で受理してもらえるけれど、遅くなれば二時間はかかるね」。その日の予定を尋ねると高須さんはそう答えた。
あらかじめ相談者と収入、借金、自動車の所有など生保の申請に必要な事項の確認はしてあるが、窓口で書類に記入する時になって新たな事実が発覚することもある。
もちろん言葉の問題が大きい。通訳が付いていても話の食い違いは日常茶飯事だ。
「一つの部屋に何家族も住んでいたり、車を持っていないと言って乗っていたり、生保の支障になる問題がぽろぽろ出てくる」。高須さんは細い体が折れてしまいそうな、大きなため息をつく。
この家族も、まだローン返済の終わっていない車を友人に貸しており、支払いは友人がするという口約束をしていたほか、消費者金融の借入や病院、市県民税の滞納などがあった。
「これじゃね、わたしが受け取っても問題を処理して実際に支給されるまで一カ月はかかっちゃうよ。自己破産の方が早いよ」。窓口の職員はお手上げという感じで、自己破産を検討するよう法律相談を勧めた。
「あの職員さんたちもいっぱいいっぱいで頑張ってくれているから、多少融通の利かないことがあっても文句は言えないの。仲良くやらなくちゃ」。そう高須さんが話す通り、三人しかいない生活保護の係は窓口に出詰め。一人は過労で倒れた時期もあったそうだ。(つづく)
写真=知立市役所内の福祉課の窓口の様子