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知立市のブラジル人=生活保護をめぐる現実=自己破産の瀬戸際で=連載(下)=頼られるボランティア=対応に苦慮する窓口

ニッケイ新聞 2009年8月7日付け

 【愛知県知立市発】「まずね、借金をして買い物をする、クレジットカードを作るということが間違っているんです。それが簡単にできてしまうこの社会はおかしいんですよ。あなたはどうしてお金がないのに車を買ったんですか」。
 司法書士のもとへ行けば話が進むかと思われたが、意外にも、その司法書士の伊藤嘉邦さんはこんこんとお説教のように諭し始めた。
 市役所の福祉課の窓口で、自己破産を含めた法律相談を受けた方がよいという勧めを受け、知立派遣村実行委員会の高須優子代表は、派遣村にボランティアとして協力してくれている市内の司法書士に連絡をとった。
 すぐに話を聞いてもらえることになり、父親を連れて事務所へ向かった。
 派遣村以降、こちらもかなり本業の時間を割いて無料相談を受けているという。
 伊藤さんは「ローンで車を買うということは、車の契約と借金の契約と二つ交わしたことになる。車を転売はできないし、払えなければ車は引き揚げられ借金は残る」と分かりやすく説明する。
 さらに、自己破産した場合、残ったローンは連帯保証人に一括請求されるという。
 「借金があるから自己破産すればいいというものではない。やれと言われればこちらが書類を書くことはできるけれど、それでいいんですか」。伊藤さんは、この場の誰もが見落としていた原点に立ち返らせた。
 顔を赤くして俯いていた父親は、「車を買ったときには仕事もあったし、その後家族が病気になってしまうなんて予想できなかった」とつぶやいた。
 司法書士のアドバイスを受けた一行は市役所へとんぼ返りし、受付終了時刻ぎりぎりに福祉課の窓口へ戻った。
 伊藤さんの助言を職員に伝え、生活保護申請を進めるため書類の記入を続けたが、ここで再び、新たな事実が判明した。
 同居している妻の母親にも収入があり、それを合算すると支給額は差し引き千円程度にしかならないという。
 「わたしお母さんが働いているなんて聞いてないよぉ」。高須さんは天井を見上げた。
 「帰国支援金は働いているともらえないと言われたから、妻は仕事をもうすぐやめる。それから帰国までが心配で。義母の収入のことはよくわからなかった」と父親は弁解した。
 本人、職員、補助、通訳の四者の理解がようやく一致してきたところで「帰国支援金は家族に仕事があると受給できないのか」という疑問が出てきた。ハローワークにその場で問い合わせるも、すぐに返事はない。
 生活保護にしても、雇用保険や帰国支援金にしても、これまでなかった例や新しい決まりが出てきて、担当者も把握しきれないのだ。
 午前の受付時刻を過ぎてしまってから「受給可能」との答えが返ってきた。
 「生活保護を受けるかどうかは今日また考えてから。帰国支援金は、まずチケットを予約する」。問題が整理できたところで散会となったが、高須さんの携帯電話には次の相談の電話がかかってくる。市役所の外国人相談窓口からだ。
 「相談者が来てるって。市役所にいるとつかまっちゃうんだよ」
 生活保護の受給には、他家族を部屋に住まわせてはいけない、原則車を持ってはいけない、借金を返済してはいけないなどの規則があるが、それに触れている相談者は多数いる。
 ひと部屋に複数家族が住んでいる場合、部屋から出なければいけないが、その部屋を見つけるのも一苦労だ。
 「受給が決まってからもその生活の仕方に気をつけてもらわないといけない。あまり細かく言ってもかわいそうなんだけど、苦情が来ているのも事実」と、実行委員会では受給者向けに生活の約束事をまとめた表を作って配布している。
 周辺の市の状況や対応の様子を伝え聞くにつけ、知立市はこうしたボランティアの小さな肩に、あまりに寄りかかりすぎていると思わざるをえない。またブラジル人自身も、これだけの日本人の厚意に支えられていることを、もっと自覚してもいいようだ。(終わり、秋山郁美通信員)

写真=知立市の市役所の入り口