ニッケイ新聞 2009年8月7日付け
移住当時の話を聞くおり、やはり食事の苦労が気になる。慣れない当初、ブラジル食は日本人を悩ませた。腹が減っては開拓できぬ、やはり日本人は日本食―とバナナを糠代わりにした漬物やミーリョを焦がした代用醤油を作った。時代は変わって今、アマゾンでも安易に食材が手に入る▼日本食は市民権を得た。しかし、その恩恵に浴している日系人がその価値を貶めている場面を不幸にも見てしまうことがある。文化は変容し、味覚は食べる本人に決定権があるとした上で書く▼国際交流基金で〃自称〃日本酒研究家が講演。最後、来場者に杯を回し、日本で最近流行していると説明したうえで、「スゴーイ!」と乾杯の音頭を取った。何も知らず、笑顔で唱和するブラジル人の間で赤面至極だった。日本のどこでそんな事を言っているのかー。そんなコラム子の問いに日本語を解さない講演者、「いえ若い人の間の流行ですよ」。ヤツガレ若くはないが、若い衝動を抑えるのに必死だった▼あるテレビ放送。料理人がリベルダーデの商店で売っている瓶詰の「なめ茸」をあたかもとびきりの珍味のように紹介。目を見開き、口に含んで悦楽の表情を作るブラジル人女性レポーター。素材として使うならまだしも、そのままをである。これがメニューなら詐欺だろう▼日本文化の専門家として滑稽極まりないだけか、直言、文化の破壊行為といっていい。日本食料理屋はかつてのステイタスにのさばって、法外な値段をつけたままだ。「リベルダーデは中華料理屋ばかり」とのため息も聞かれるが、その理由の一つは獅子身中の虫にあると言っては言い過ぎか。 (剛)