ニッケイ新聞 2009年8月26日付け
新しい市民の誕生――日本では見ることの出来ない光景を目撃した。ビザ切れ外国人の滞在資格を合法化するアネスチアの手続きが先月から行われており、サンパウロ市レプブリカ公園そばの会場に入る時の外国人の不安そうな表情が、無事登録を終えて出てくる時の明るく自信に満ちた顔に変わっている様に感銘を受けた。たった紙切れ一枚のことだが、ビザの有無がその人の精神状態や生活、ひいては人生にいかに大きな影響を与えるかを痛感する▼それまで数年もビザ切れ状態でいた間、もし警察に職務質問されたら、祖国の親兄弟に何かあったらなどと心配事の尽きない高ストレス下にあっただろう。今回の十一年ぶりのアネスチアにより、二年後には永住権への切り替えがある。つまり、選挙権や徴兵以外はほぼブラジル人と変わらない市民となる▼興味深いのは、ブラジルではビザ切れという理由だけ犯罪者扱いされることはまずない点だ。積極的に捜査される類の犯罪ではなく、なにか別の問題で警察のお世話にならない限りはほぼ放って置かれる。日本などの先進国では「不法滞在」など非合法性を強調されて、ビザがないだけで犯罪者扱いされるのとは明らかに対応が違う。社会的な許容量の違いだろう▼スペイン語をしゃべる七十歳すぎの白人老婦人が、連警職員に付き添われて会場から出てきた。「あなたは二月一日以降に外国旅行しているから権利がない」。職員が、会場の外で待っていた娘と思しき白人女性にそう説明すると、その訳を聞いた老婦人はがっくりと頭をたれた。次の機会はいつの日か。日本にはないドラマが日常の街角で繰り広げられている。 (深)