ニッケイ新聞 2009年9月12日付け
大勢の人が入るから嬉しいのではなく、距離感を大切にしたい――。十一年目のブラジル公演を終えた歌手の井上祐見さんが九日、挨拶のためにマネージャーの中嶋年張さんと共に本紙を訪れ、二十八日間のブラジル滞在を振り返った。八月十四日に来伯、十五日のサンパウロ市の援協社会福祉センター落成式に始まり、今月七日のサンタカタリーナ州ラーモス移住地の公演まで、アトラクション出演や交流会も含め十一カ所で計十三公演を行ってきた。
ラーモス移住地での公演では、非日系人がほとんどの観客の前で、ステージから降り熱唱、指笛や歓声が鳴り止まないほどの盛り上がりをみせた。公演開始直後、停電に見舞われたが、復旧するまでアカペラで歌い、「すべてハプニングと考え、観客との気持ちが一つになった」と前向きに捉える。
今年初めて公演をしたパラー州トメアスー移住地では、第一回アマゾン移民の山田元さんから移住の話を聞き、ピメンタ農場や原生林も見学、「〃移住〃を目と耳で感じることができた」と感想を語った。
九年連続で通っているグァタパラ移住地では、マイクを来場者に渡して、祐見さんが踊る場面も。「聞かせるだけでなく、みんなと一緒になって楽しめた」。また、同移住地から若い世代が徐々に減っていく現状も、毎年通うからこそ分かるという。
移住地で会う人々とは、一生に一度会えるか分からないという気持ちを持ちつづけている。ある公演では、「来年も来てね。生きているか分からないけど」と言われ、祐見さんは「会えたのが奇跡。一回一回が縁」と語る。公演終了後、すぐにファンクラブが発足した場所もあるほど、ファンの心を虜にしてしまう。
約一カ月の公演を振り返って祐見さんは「観客が多いから嬉しいのではなく、心が通じる距離で公演ができた」と語り、「ブラジルは大好きなので、出来る限り続けたい。皆さんも出来る範囲で応援して欲しい」と日系社会にメッセージを送った。
次回は十二年目となる南米公演。中嶋マネージャーは「ブラジル国内の移住地をもっと知りたいので、どんなに遠くても、どんなに人数が少なくても良いので、声を掛けて欲しい」と語った。
祐見さんと中嶋マネージャーは十日に帰国した。