ニッケイ新聞 2009年9月16日付け
【愛知県知立市発=秋山郁美通信員】「家に閉じこもってないで出てらっしゃい! ブラジル料理の屋台もたくさんある無料のパーティーよ。もうすぐ手品や太鼓のショーも始まります!」。ポ語のアナウンスが何度も団地内のスピーカーから聞こえる。放送しているのは知立団地の小さな集会所。ブラジルカラーで飾られた玄関にはシュラスコやパステルの屋台が並ぶ。「騒音禁止」の約束で普段は控えられているであろう音楽も、今日だけは盛大に流れている。
愛知県の知立団地で六日、初めてブラジリアンデイが開かれた。企画したのは、普段からイベントの装飾の仕事をするネウ・パウロさん(三世)と、団地の自治会理事をミウラ・クミコさん(二世)。二人は団地に住む友人だ。
「僕たちが参加して楽しむイベントがないから自分たちでやろうということになった」とネウさんはきっかけを話す。
ブラジルでは、サンパウロ市やリオでカーニバルの仕事を十五年経験。日本へ来てからもパーティーの飾り付けを本業としているだけあり、イベント運営はスムーズだ。
いつもは会議室になっている部屋で和太鼓の演奏が始まった。近くの小学校で太鼓を教える日本人の紹介で、高浜市のアマチュア和太鼓グループが五曲を披露。
徐々に部屋に人が集まり、曲が終わるたびに歓声が上がった。祭囃子では全員が手拍子を打ち、和のリズムで体を揺らした。
その後も手品やピエロのショー、ブラジルの音楽で盛り上がり、来場者は増えていった。
「これはかぶりつくの?」とパステルの食べ方を近くのブラジル人に尋ねる日本の婦人。
屋台のブラジル人スタッフが、日本人客相手にやたらと頭を下げている様子が面白い。
終了後、ネウさんとミウラさんは「意外に来場者の半分が日本人だった」と話す。
「わたしたちは旅行者ではなく、生活者。楽しく生きなければ」とミウラさんは力を込める。
片付けるのは全員近所のボランティア。汗だくになりながらも満足そうな笑顔を見せていた。
二人は「ハロウィーンとナタルもやることも決めた。来年は市役所に頼み、広い場所でやりたい」と意欲的だ。
知立団地の人口比は日本人とブラジル人半数ずつだが、このようなイベントが行われることはなかった。
ブラジル人の手により、団地内の集会所から始まった日伯交流。規模は小さいが、多文化共生に向け、大きな第一歩を踏み出したようだ。