ニッケイ新聞 2009年9月17日付け
アガサ・クリスティの推理小説「オリエント急行の殺人」ですっかり有名になった欧州とアジアを結ぶ鉄道が廃線と決まったらしい。欧米の富豪やスターなどがよく利用し客車の内装の豪華さもながらー料理も超一流のもので乗客たちの舌を楽しませもした。そんな名物鉄道が消えて行くのはやはり寂しい。我がリオーサンパウロ高速鉄道も腰が重く気の滅入ることばかりが多い▼まあーこんな哀しい話ばかりではなく、中国では高度5000メートル超をチベットのラマに走り抜ける列車が登場しあっと驚かせ、台湾には新幹線が走り、ヴェトナムやアメリカも日本の新幹線に大いなる興味を抱いているし、ブラジルも同じである。この南米の大国は、広大な領土を誇るのだから人と物の輸送力から見ても鉄道の敷設に力を入れた方がいい▼今の日本はバスに乗っての旅行が大流行だそうながら昔の「旅」は汽車である。若かりし頃はユースホステル利用で北海道や四国と九州をぽっぽ列車で回るのだが、あの「ゆっくり」には味があってとてもいい。田舎の鈍行だと朝の7時頃には高校生で車輌がいっぱいになり、夕刻には帰宅する魚売りのおばさんが乗り込んで来りと真に愉快で面白い▼これに内田百閒の「阿房列車」とか鉄道紀行作家の宮脇俊三の「中国火車旅行」などを持ち込み、夜になり窓外が暗くなってからは、パラリパラリと括れば楽しみも倍加というものである。あの阿川弘之さんも交通公社の月刊・時刻表を毎月購入するほどの「気狂い」だし、こんな「テツ」(鉄道フアン)もやっと市民権を獲得したそうだからーこんないい話はない。 (遯)