ニッケイ新聞 2009年9月19日付け
海外貿易局は十七日、金融危機によってブラジルの貿易形態が変わり、一九七八年の一次産品輸出水準へ逆戻りと発表したことを十八日付けエスタード紙が報じた。一月から八月の二次産品輸出が四二・五%であるのに対し、一次産品が四二・八%と凌駕、加工品輸出の落ち込みが政府を憂慮させた。BNDES(社会開発銀行)は、資本財の輸出金融に力を入れることを発表。中央銀行のメイレーレス総裁は、輸出企業の国際競争力と為替動向を検討する意向を表明した。
一キロのノートブックを輸入するために四トンの牛肉を輸出しないと貿易赤字になる。いかに輸出産業の背景が不利であるかを物語っている。為替が一ドル=一・八〇レアルでは、国内価格をカバーできないからだ。
貿易収支は八月現在、二百八十億ドルの黒字となっているが、内容は決して楽観できるものではない。恐慌が世界の産業構造を変えた。一次産品輸出の収入は、当てにならない。いつヒステリーを起こすか分からない女房のようなもの。
コモディティ市場は短期的には、大量のドルが入る。しかし、長期的には、雇用を創出しないし、安定市場とはいえない。コモディティ市場の未来は、世界経済の動向次第だからだ。
だが、コモディティ産業がダメというのではない。ブラジルには、世界に稀な広大な農地と農業最先端技術などの条件が揃っている。食糧と鉄鉱石輸出は、神から賜った天職といえる。
不況が世界をおおう中、八月で二百八十億ドルの貿易黒字は当りクジだ。今年も無事に対外収支を締め、よい年を越せる。中国が八%の経済成長率を保ってくれたお陰で、大量の大豆と鉄鉱石を買ってくれた。
金融危機はウオール・ストリートで長期にわたってクレジットを引き出したため、加工業が最大の被害を被った。だから心配なのはコモディティ輸出ではなく、過度に何かへ依存することといえそうだ。
一次産品輸出には、二つの問題がつきまとう。一はコモディティ相場に左右されるので、収入が不安定だ。二は大豆も鉄鉱石も機械が生産するので、雇用が少ない。
ブラジルのコーヒー王国時代、コーヒー暴落で国が地獄へ落ちたような騒ぎが起きたことがあった。それを改善するため、工業化政策を採ったのに、その工業が、また落ち込んだのだ。
加工業不振は、国際的な需要落ち込みばかりではない。また不利な為替率だけでもない。経営者が国際競争力を養うため、官僚機構や税制改革、低利クレジットなどで積極的に政府へ働きかける必要がある。